遺跡調査14
ヒヅキが物騒な雰囲気に変貌していく通路をしばらく進むと、通路の終わりが見えてくる。
それは不釣り合いなまでに重厚で高級感のある扉で、周囲の石の壁や床と違い綺麗なままであった。
(何かの魔法でもかかっているのか?)
ヒヅキはその扉を細部までしっかりと観察する。やはりその扉は魔法が掛かっているようではあったが、危険なものではないように思えた。
「…………」
慎重な手つきでヒヅキはその扉のドアノブに触れると、それを回して扉を開ける。
「あれは……この遺跡の守護者のようなものか?」
扉の先に広がる部屋は縦に長い部屋で、その奥に重々しい雰囲気を纏った、見るからに威圧感のある存在が鎮座してた。
ヒヅキは室内に目を巡らせ他に脅威がないのを確認すると、室内へと足を踏み出す。
(血のにおいに微かに混じってるこれは……何かが焦げたにおいか?)
よくよくにおいを嗅いで判るほどに僅かにではあるが、どこか人を不快にさせるような焦げた臭いが空気中に混じっていた。
(ん? このにおいは何だ? それにこの気配は……)
室内を更に進むと、そこでヒヅキは別のにおいが空気に混ざったのを敏感に嗅ぎ取った。それに加えて、背後の離れた場所に気配を殺して近づく生者の気配。
(ふむ。何やら面倒な事になってきたな)
そう思いながらもヒヅキが歩みを進めた事で、奥に居る何者かの全容が浮かび上がる。
そこに鎮座していたのは、全身を濃い紫色の鎧で身に纏った人間の骸骨であった。しかし、前面が開いている兜から見える顔には干からびた皮膚が張り付いていて、白骨という訳ではなく灰色に近い。
その骸骨の落ちくぼんだ眼窩には妖しい光が灯っており、手には見るからに切れ味のよさそうな鋭い光を反射させる斧が握られている。
身に纏っている鎧も丈夫そうな代物で、被っている兜もまた名品の様に思えた。
そこでその骸骨が動き出す。
ゆっくりとした動きではあるが、挙動は実に滑らかなモノだ。
「これもまた、同じ魔法なのかね?」
それにヒヅキがのんきにそう感想を述べると、骸骨は大きく跳躍してヒヅキとの距離を一気に詰めてから、着地と共にヒヅキの頭上へと斧を振り下ろす。
「よっと」
ヒヅキはその振り下ろしを後ろに軽く跳んで楽々と避けると、直ぐに地を蹴り、すれ違いざまに光球を変化させた光の剣で骸骨の首を斬り落とす。
「外れか」
骸骨は頭の無い状態で、振り向き様にヒヅキへと斬りつける。
「強いのだろうが……やはり遅いな」
その斧をヒヅキが光の剣で受け止めると、斧はあっさりと切断されて空を切る。
そのままヒヅキは骸骨の身体を背骨に沿って縦に二つにするも、骸骨は尚も斧を持つ右手を動かした。
「ここか?」
ヒヅキが骸骨の右腕を肩の部分から切断すると、今度は右足をばたつかせたので、右足も股関節の辺りから切断した。
それでもまだ胴体を動かしたので、その胴体部分の鎧を剥がし、中を確認する。
「文字は中身に書かれていたのか」
鎧を捨てて骸骨の方に目を向け、干からびた皮膚の部分に何かが書かれているのを確認したヒヅキは、そこに光の剣を突き立てた。