遺跡調査10
ヒヅキは考えながら通路を進むも、答えが出る前に、通路の突き当りにあった階下へ延びる階段に辿り着く。
(まだ地下があるのか)
軽く見回してみても、一本道である為に他に道がないことを確認したヒヅキは、その階段を下りていく。
(何か残っているのかね……)
階段を下りきると、そこは上階と同じ石造りの古びた空間であった。しかし、そこには上階よりも凄惨な光景が広がっていた。
(血痕、戦闘跡に加えてここからは骸骨もあるのか……奥に死体でもあるのかな?)
つい最近この場所に何者かが入り、大怪我を負ったのを地上の小さな建物前で見つけているヒヅキは、その仲間でも奥に転がっているのではないかと、ぼんやりと考える。地上に逃げた者が単独の可能性もあるので、ただの可能性でしかないが。
(とりあえず今は、ここにも何かが居るという事だけでも分かればいいか)
ヒヅキは戦闘時の様に周囲に気を配りながら先へと進む。
光源は小さな光球の明かりのみではあるが、それでも不思議と遠くまで照らしてくれる。
(本当に魔法というものは便利なものだな)
それにヒヅキは光の魔法が使えなかった頃を思い出し、そう感想を抱く。
(こうなると、やはり水の魔法も欲しくなるな。火の魔法もいいが)
気を張りながらも、そんな事を頭の片隅で考えるだけの余裕を維持したまま歩いていると、何かが動いたような感覚を覚えて目を闇の中に向ける。
「ふむ。今度は正面からのご登場か」
ガシャ、ガシャと金属同士が軽くぶつかる音を立てながら闇の中から現れたのは、広範囲を黒っぽい藍色に染めた甲冑を身に纏った存在であった。
「君、生きている? それとも中身は空かな?」
兜を被っている為に顔も見えはしないが、視界を得る為に目元に開けられた部分からは、闇しか窺えない。
「君も聞く耳なし、と」
その甲冑は手に持つ剣を掲げると、急に速度を上げてヒヅキへと接近し、その掲げた剣を勢いよく振り下ろした。
「質問、いいかな?」
その剣を後ろに跳んで軽く避けたヒヅキは、更に前進して切り上げてくる甲冑に話し掛ける。
「なんでそんなに剣は綺麗なんだい?」
石畳を斬りつけても刃こぼれひとつせず、磨かれた金属特有の艶やかな輝きを放つその剣は、完成して間もない剣の様に綺麗であった。
鋭い軌道でヒヅキを縦に真っ二つにしようと切り上げられたその剣を、ヒヅキは横にひょいと避けると、光球を変化させた光の剣で甲冑の首を狙う。
「……へぇ。やっぱりそこが弱点なんだ」
首に迫った光の剣を、甲冑は身体を逸らしつつ捻ると、わざわざ右手を犠牲に受け止める。
「そして、中はやっぱり空か」
ガシャンと大きな音を立てて、右腕の肘から先が地面に落ちる。切断面から覗くその中に詰まっていたのは、案の定闇のみであった。
甲冑は身体を正面に戻す勢いを利用して、残った左腕で円を描くような軌道でヒヅキを横に薙ぐ。
「よっと」
それを受けてヒヅキは大きく跳んで後退する。そうして距離を取った後、甲冑と対峙した。
(周囲には何も居ないのは確認した。ならば後は――)
警戒してか動かない甲冑と対峙しながら、ヒヅキは甲冑の中の魔力的な反応を探る事を始めた。
「…………本体はその兜か」
そして、甲冑が被っている兜の中に僅かな魔力的反応を確認する。
「これは、調べさせてもらわないとね」
そう小さく呟くと、ヒヅキは甲冑との距離を一気に縮める。
それに反応した甲冑が片手で剣を突き繰り出してくるも、しかしそれではヒヅキを捉えるには至らなかった。