遺跡調査9
ヒヅキが石像の首を切り落とすと、身体を真っ二つされようと、両腕を切り落とされようとも動こうとしていた石像は、ついに沈黙した。
(首が弱点なのか? それともたまたまか?)
そう思いながら、ヒヅキはしばらくの間石像を警戒しながら観察していたが、動く気配は感じられない。
光の剣を光球に戻すと、視線を石像から横道に移したヒヅキは、左右の道に目を走らせ、左の道に足を向けた。
その横道も変わらず石造りの道で、光球が照らす壁や床、天井は相変わらず年季を感じさせる。
(ここには一体何があるのか)
そう考えながら進むヒヅキは、今更ながらにプリスの説明不足に苦笑した。
(場所は知っていても、何があるのかまでは知らなかったのか?)
その可能性は十分にあった。
プリスはエイン付きの侍女ではあるが、教えられた遺跡を探索した事があるとは思えない。もしかしたら調べた事があるかもしれないが、詳しい話までは記されていなかったのだろう。
(それにしても、この通路には血の跡や戦闘跡は無いな。あれはこちらまでは来ていないのか、それともこちらは護る必要がないのか……)
その考えが頭に過りつつもヒヅキが進んだ先は、行き止まりであった。
「…………はぁ」
ヒヅキは息を吐くと、踵を返す。幸いそこまで長い通路ではなかったために、石像と戦った通路までは直ぐに戻ることが出来た。
そのままヒヅキは反対側の横道に入っていく。
「……こっちも酷いな」
左側の通路と違い、少し進むと血と戦闘跡がそこら中に確認出来る。
(破壊痕だけではなく引っ掻いたような傷。入り口付近にも少しだけあったが、これは侵入者によるものなのか、それとも石像以外の敵によるものなのか……)
徐々に増えていく、先程の石像が残した破壊跡以外の痕跡に、ヒヅキは先の闇へと目を向ける。
(気配はない。ここに生き物は居ないか……まぁあの石像は生きても死んでもいなかったからな)
そこでヒヅキは先程戦闘した石像について思考を巡らす。
(あれは何を動力に動いていたんだ? まぁ魔法だろうが、一体何の魔法だ?)
石像の姿を頭に思い浮かべ、気になる部分は無かったかを考える。
(人の姿を模した石像で、精密ではあるが糸のような操るモノはなかったし、魔力的な反応はいまいち分からないしな)
ヒヅキは魔力を感知する事は出来るものの、小さい反応を感知するのは苦手としていた。それ故に、大きな魔力的反応でなければ、集中しなければ魔力を感知できない。少なくとも、戦闘中では集中が必要な分、余程弱い相手でもない限りは、小さい魔力の感知は難しかった。




