遺跡調査8
ヒヅキが僅かに傾斜がついている、縦に長い通路をしばらく進むと、左右に様々な題材で造られた見事な石像がずらりと並ぶ場所に到着する。
その今にも動きだしそうなほど精密な細工の石像の前をしばらく歩き続けると、ずらりと並ぶ石像の区画を抜けることが出来た。
それから少しの間通路を進むと、今度は横に曲がる通路を見つける。
向かい合わせに右と左の二つの横道があいている為に、その前でヒヅキはどちらに行こうかと立ち止まって思案する。
「ッ!!!」
そこでヒヅキは不意に寒気に襲われ、前に跳びながら背後を振り向く。
ヒヅキが振り返ると同時に、ガゴンという硬いモノが壊される鈍い音が通路に響いた。
「……ああ、君かい? 入り口付近にあった破壊跡と血痕を床や壁に刻んだ存在は」
そこには先程通路に置いてあった石像の一つ、人間の男性の像が、拳をヒヅキが数秒前まで立っていた場所に叩きつけていた。
「流石に喋れないか。言葉を解する知性もなさそうだし」
ヒヅキは早々に対話を諦めると、拳を戻して体勢を立て直している石像へ、明かりの為に現出させていた光球を光の剣へとすぐさま変形させて斬りつける。
「スキアよりも硬いのか」
スキアを倒せるギリギリの出力にしていた光の剣での攻撃は、石像に傷を付けただけで腕の一本も斬り落とせていない。
石像は体勢を立て直すと、上半身を振って近くまで来たヒヅキへと拳を横に振り抜く。
「おっと! どうやらスキアよりも硬いが、攻撃速度と威力はスキアに比べれば大したことないらしい」
その振り抜かれた拳を難なく回避したヒヅキは、拳が通り過ぎた事で起きた風圧に、そう判断する。それでも冒険者ぐらいしか相手に出来なさそうではあったが。
(出力調整。まずはしっかりと斬れるか出力は高めでいくか)
光の剣の出力を一気に上昇させると、ヒヅキは石像に再度斬りかかる。
(斬れることは斬れるらしい)
その斬撃により胴体を横に真っ二つにされた石像は、そのまま上半分と下半分が重たい音を立てて地面に落ちる。
(さて、次はどっちの道に――)
石像を倒したヒヅキは、どちらの横道に進もうか考えようとして、慌てて目を石像に戻す。
すると、石像の上半分が尚も動き、ヒヅキの足を捕まえようと腕を動かしてきていた。
「君もしぶといねッ!」
ヒヅキは軽く後ろに跳んでその腕を避けると、先程より出力を抑えた光の剣でその腕を斬り落とす。
(これぐらいならばまだ斬れるか。もう少し出力を下げても斬れそうな手ごたえではあったな)
さらに少し出力を落とした光の剣で、残ったもう片方の腕を切り離す。
(もう少し余裕があってもいいか)
ヒヅキは再度出力を微調整すると、まだどうにか動こうとしている石像の首へとその刃を向けた。