遺跡調査6
社があった小高い山から下山したヒヅキは、元々目指していた遺跡に向けて歩みを再開する。
広い草原を、行軍の為かまだ舗装されている道の上を進む。
少し前までこの辺りにもスキアが居たからか、人の姿を一人も見かけない。直ぐ近くに街や村が無いのも原因だろう。
「…………」
警戒の為に周囲に目を向けながらも、ヒヅキは淡々とした足取りで道を歩いていく。
そのまま歩み続け、翌日の昼頃になってやっと遠くに村を見つける。
(さて、人が居るのか)
今まで寄ってきた街や村には人が少なかった。特に村にはほとんど人の姿がなかった。
それでもヒヅキは様子を見る為に村に寄る事にする。
「…………ふむ」
そこは他と変わらず寂れた村であった。しかし、荒らされたりはしていないので、住民が去ってそんなに経っていないのだろう。
(…………ん?)
村の中に足を踏み入れたヒヅキは、直ぐに人の気配がある事に気がつく。
(家の中か?)
村の中を歩き回ったヒヅキは、一軒だけ人の気配がする家の戸を叩く。
「…………すみません。旅の者ですが、何か食べ物か水を分けて頂けないでしょうか? お金でしたら少しは在るのですが」
それから暫く待っても気配を殺して動こうとしないので、ヒヅキはとりあえず自分の正体と目的を告げる。実際はそこまで食料に困ってはいなかったが、それでもあればそれに越したことはない。
「…………」
それから更に待ってみると、ヒヅキは扉越しにこちらを窺う視線を感じ、暫くそれに耐えると。
「……も、申し訳御座いません。家には食料も水もお分けできる程の貯えはありません」
扉の先から僅かに震える女性の声でそう告げられる。
「そうですか、それはすみません。お騒がせ致しました」
返答があったという事は諦めたのだろうが、ある程度は大丈夫だと信頼したのだろう。
ヒヅキはもしかしたら前日の廃村について何か聞けるかもと考えただけで、当然恐がらせるつもりは全くなかった。なので、諦めて早々に立ち去る事にする。中に別に感じる、生きているはずなのに微塵も動く気配の無いもう一人のことは少しだけ気にはなったが。
ヒヅキは扉越しに迷惑かけたと女性に一言謝罪すると、早々に踵を返す。村は見回った感じ、人が居ない事以外は特に変わったところは見当たらなかった。
村を出るまで感じた視線を振り切り、ヒヅキは更に北へと目指す。
ぽかぽかとした陽気の中での移動で、薄っすらと額に汗をかきながらも、ヒヅキはひたすらに北を目指す。もうすぐプリスに教えてもらった遺跡の一つがみえてくる頃合いであった。