ガーデン出立4
プリスの珍しい表情を見たヒヅキではあったが、それに特に反応するでもなく、「それでも何も要りませんがね」 と、微かな笑みと共に返した。
「ここでは諦めますが、それでもエイン様は何かしら強引に御渡しになる事でしょう。それに、ヒヅキ様はそれだけの事を成してしまっています。あれだけの功績を上げられたのですから、何か受け取って頂かなければ、王家の沽券に関わります」
「……ふぅ」
プリスの真面目な声音に、ヒヅキは困って息を吐き出す。
「分かりました。では、その際は受け取らせて頂きます」
しかし、ヒヅキは変に意固地にはならず、あっさりそれを受け入れた。
「そうして頂けるとこちらとしても大変助かります」
そんなヒヅキに、プリスはエインの従者として頭を下げた。
「では、他に用件がなければそろそろ私はガーデンを発とうと思うのですが」
「はい。御引き留めして申し訳ありませんでした。ヒヅキ様が歩む道に光あらんことを祈っております」
「ありがとうございます」
そう言って二人して微笑むと、厩舎の外に出る。
そのまま屋敷の外まで出ると、ヒヅキはプリスに見送られながらガーデンの北門を目指し歩みを進めた。
その途中、ヒヅキはプリスから見えなくなると、一度ギルドが集まっている区画へと足を延ばしてみる。
曲がりくねった迷路を越えた先はガランとしていた。
それは冒険者たちは勿論の事、付近の住民も丸ごといなくなっていた為だ。通りには不審者さえ見当たらない。それは迷路のおかげかもしれないが。
ヒヅキは、シラユリやサファイアなどの世話になった者たちが所属していたギルドの場所を見て回る。
どこも厳重に閉まっているうえに、やはり誰も居なかった。
「…………」
それらを目に焼き付けるように少しの間眺めると、ヒヅキは北門を目指す。
今回は城壁を飛び越える事無く、北門の正面から出ていく。
人の往来はスキアが居た頃よりは断然増えはしたが、それでも明らかにまだ少ないままだ。
(そう直ぐに戻りはしないか)
そう思いながらも簡単な検査を受けただけで、出国に長い時間拘束されるようなことはなかった。それに少し拍子抜けしつつも、ヒヅキはとうとうガーデンの外に出た。
そこは背の高い草に囲まれた場所で、整備された街道だけが草の中に浮かび上がっている。吹き付ける風は清々しいが、草のにおいはあまりしない。
駆け抜けた前回と違い、今回は立ち止まってそれを確認するが、ガーデンに入ってくる際に通った南門の風景と大差ない風景であった。それをヒヅキは内心で少し残念に思うが、気を取り直して遺跡がある場所へと足を向けた。