ガーデン出立3
プリスの言葉に了承を返したヒヅキが後に続いて向かった先は、プリスの屋敷の裏手であった。
そこには立派な厩舎があったものの、活気がなく、寂しさが感じられる。ただ、手入れだけはしっかりされているようで、みすぼらしさなどは見受けられなかった。
「こちらです」
そう言うと、プリスは厩舎の中にヒヅキを案内する。
「ここに何が?」
静かな厩舎の中、プリスが立ち止まったのは、唯一この厩舎内に居た馬の前であった。
「こちらをヒヅキ様に」
「え?」
馬を手のひらで示してのプリス言葉に、ヒヅキはどういう意味かと首を傾げる。
「先の活躍に対してのエイン様よりの褒賞で御座います。旅の資金の方は間に合いませんでしたが」
「……あ、ああ」
かつて褒賞は要らない言ったヒヅキに対して、エインが馬と旅の資金ぐらいは渡すと言っていたことを思い出したヒヅキは、馬へと目を向ける。
それは毛並みがよく風格のある立派な馬で、そこらの市場ではまずお目に掛かれそうにはないほどの名馬に思えた。
「本来であれば、ヒヅキ様の功績に対してこの程度の褒賞では到底及ばないので御座いますが……」
「いえ、これでも私には過分なほどです」
通行証だけでも十分過ぎると考えていたヒヅキは、それに首を振る。
「ガーデンの損害は少なかったとはいえ、現在スキアとの戦闘が一段落ついたことで支出がかさみ、まとまった金額が用意できないのが現状でして」
「私に下賜されるのでしたら、国の為にでもお使いください」
「そうですか……ヒヅキ様が御望みでしたら領地ぐらいは用意出来るでしょうが……」
プリスの言葉に、ヒヅキは首を振った。
「やはりそうですか……これからどちらに向かわれるので? やはりエルフの国へ?」
「いえ。その前に遺跡を調べてみようかと」
「遺跡を、ですか?」
「はい」
ヒヅキの返答に、プリスは少し考える。
「どこの遺跡に向かわれる御積りですか?」
「それは――」
ヒヅキは予定している遺跡の場所をプリスに伝えた。
「なるほど。探索の目的は何でしょうか?」
「スキアについての調査、ですかね」
「……それでしたら――」
プリスはヒヅキに他の遺跡の場所を幾つか伝える。そのどれもが、図書館の資料には僅かも載っていなかった遺跡の場所ばかりであった。
「それらの遺跡では、黒き太陽をはじめとした多数の遺物が見つかっております。ただし、どれも警備している兵士が居ります……いえ、今は居ませんので居ました、でしょうか」
「どういう?」
「スキアの通り道でしたので、全て避難させたのです。しかし、それもスキアが消滅した事で、もうじき再配備される運びになると思いますので、探索するのでしたら早めの方が宜しいかと」
「なるほど。貴重な情報をありがとうございます」
「いえ、他ならぬヒヅキ様にでしたらこれぐらい」
「……では、この情報を報酬代わり、でいかがでしょうか?」
「…………」
「貴重な情報です。少々過分すぎる気がしますので、流石にこの馬も受けとれません」
「それは」
「直にこの馬が必要になるかもしれません。それに、遺跡の中には連れていけませんから」
「……畏まりました。遺跡内にはよく分からないモノもあります。くれぐれもお気を付けください」
「はい」
困ったようにしながらも、プリスはヒヅキの提案を受け入れてくれた。色々と理由は在るのだろうが、その返答は、それだけ遺跡の中が危険だという事を意味しているのだろう。
「ですが、報酬はまた別の形で御用意するかもしれません」
そう言ったプリスの表情は、どことなく悪戯っぽい雰囲気を滲ませていた。