ガーデン出立
図書館で受付をしている三人の女性を送ったヒヅキがシロッカス邸に戻ると、シロッカスの書斎に居たシロッカスとアイリスに明日には発つ事と、今まで長い間世話になった事の礼を改めて伝える。
「そうか、寂しくなるな。だが、次は遺跡を探索するのだろう? それならば、それが終わった後にでも一度寄ってはくれないだろうか?」
シロッカスの言葉に、ヒヅキは僅かに思案する。
ガーデンを発った後に北の遺跡を探索しに行く予定ではあったが、早めにエルフの国に行きたくもあったので、そう長くは探索するつもりはなかった。とはいえ、予定は予定でしかない。探索に長くかかる可能性もあるので、ヒヅキはその事が気にかかっていた。なので、探索の後にガーデンに寄る事自体は問題はなかった。
それをヒヅキが伝えると、シロッカスはいつでも待っているよと、笑みを浮かべて返した。
「それでしたら、了解しました」
シロッカスの返答に、ヒヅキは提案を了承する。
(これでアイリスさんとの約束? も果たせれば……無理か。あれはエルフの国から帰ってきてからの話になるしな)
「だそうだ。よかったな、アイリス」
「は、はい」
シロッカスが顔を向けると、アイリスは薄っすら頬を朱に染めて頷いた。
そこに食事の準備が整った事を告げられる。いつもより少しだけ遅かったが、どうやらヒヅキが戻るのを待っていたようだ。
三人はそのまま食堂へ移動し、食卓を囲む。まだ朝食があるので三人で囲む最後の食卓という訳ではないが、それでも賑やかの中にも寂しさの混じる空気が漂う。
そんな空気の中でも食事を終えて雑談をすると、それぞれの部屋に戻る。風呂へは順番に入った。
日付が変わるぐらいになれば、風に乗って聞こえてくる外の喧騒も大分落ち着いてきていた。もう祭りは終わった時刻であったが、それでも興奮冷めやらぬ者はそれなりに居るのだろう、祭りの前よりは外が騒がしい。
荷造りを終えたヒヅキは、暗い部屋で暫し風に頬を撫でられながら、その音に耳を傾けていた。
(一応殿下に声を掛けた方がいいのだろうか?)
そう思い、少し考える。
(……一応様子だけは見に行くか。それで大丈夫そうであったら一声掛けてからガーデンを出るかな)
何であれ色々と世話になった以上、それぐらいはするべきかと思い至たり、ヒヅキはそう決めた。
(さて、それじゃあ寝るかな)
窓を閉めたヒヅキは、明日に支障が出ない様にと、ベッドに横になる。
(それにしても、本当に予想外に結構長く居たものだ)
そう締めくくると、ヒヅキのガーデン最後の夜は過ぎていったのだった。