祭り16
食事を終えて四人は食後のお茶を飲み終えると、一息ついて席を立つ。
「ありがとうございました」
この店は後払いらしく、入り口近くに会計場が設置されていた。
そこで三人分の会計を済ませると、四人は外に出る。本当にヒヅキの分は無料にしたらしい。
「本日はいい店を紹介してくださりありがとうございます」
店を出ると、ヒヅキは三人に礼を述べる。
「気に入っていただけたのでしたら良かったです。これからもどうぞ贔屓にしてください」
そう青髪の女性が応えると。
「ねぇヒヅキさん。折角ですし、お礼とは別にこれから一緒に見て回りません?」
赤髪の女性はするりとヒヅキの腕を取ると、どこか色っぽくそう尋ねてくる。
「とても魅力的なお誘いですが、皆さんの邪魔になってしまいますので、遠慮させて頂けます」
そんな赤髪の女性に、ヒヅキは微笑みながらそう返す。
「あら、邪魔だなんて思いませんわよ? ねぇ?」
「ええ。ヒヅキさんであれば私は歓迎しますよ」
「わ、私も」
「ほら。それに男の方が居た方がまた絡まれずに済みますもの。という訳で、さぁ行きましょう!」
赤髪の女性はヒヅキの腕に自分の腕を絡めて引いていく。
「で、では私も」
空いていた反対の腕には青髪の女性が自分の腕を絡める。
「あ」
黄髪の女性はそれに残念そうな声を出した。
「後で交代しましょ」
それに赤髪の女性がそう告げると、黄髪の女性は「ありがとう」 と、笑みを浮かべた。
そんな三人の女性に引かれながらも、ヒヅキは祭りを見て回る。
振りほどこうと思えば容易に出来はしたが、折角の祭りなので、最後ぐらい賑やかなのもいいかとヒヅキはそれを受け入れていた。ただ、たまに刺さる周囲の視線が少し痛かった。
そのままガーデンの祭りを四人で楽しむも、混雑し過ぎている中央へは近寄らない様な道を辿る。
代わるがわるヒヅキの腕を取り横に並ぶ三人の女性はどこか悪戯っぽく、または楽しそうに、もしくは恥ずかしげに楽しんでいる。
それから四人で日が暮れるまで遊んだものの、その間三人の女性に不快な感情は全くみられなかった。
祭りは夜中まで催されているが、四人は日暮れには帰る事にする。念の為にヒヅキは三人を家まで送る事にしたが、どうやら三人は一緒に住んでいるらしく、直ぐにそれは果たされた。
ヒヅキはせっかく家の前まで来たのだからと、三人に家に招待される。
しかし、流石にそれは丁寧に、そしてはっきりと辞退し、ヒヅキは三人が家に入ったのを見届けてから一人でシロッカス邸を目指して、来た道を戻っていく。
祭りは今少し続くために騒々しいものの、道中見上げた空には、変わらず寒々しい輝きを放つ不快な月が静かに浮かんでいた。