祭り15
それからしばらくの間、ヒヅキは三人と雑談を交わす。
元々図書館で軽く挨拶を交わす程度の仲でしかなかったために、人となりの一端を知る事が出来る雑談は色々と新鮮なモノがあった。そもそもヒヅキは三人の名前も知らなければ、三人もヒヅキの名前を知らなかったのだから。
それ故に、三人と雑談を交わしていくうちに今更ながらに四人は自己紹介を行った。
それから少しして、四人の元に定食が運ばれてくる。どれも素朴な見た目ながらも、美味しそうな匂いを立ち昇らせている。
目の前に運ばれてきた定食にヒヅキは目を向ける。白米と焼き魚に何かを溶かした液体、それに漬物が添えられた定食だった。パンが多いカーディニア王国では、白米は珍しい。料理の説明には、液体には大豆を発酵させたモノを溶かしていると書いてあった。これもまたカーディニア王国では珍しい料理であった。
四人は食膳の祈りを捧げると、食事を開始しする。
ヒヅキはまずはその液体が入った器を手に取り、口をつける。
出汁を取ったお湯を使っているのか、様々な素材が混ざりあった様な深い旨みを感じた。それでいてどこかホッとする優しさを感じるのだから素晴らしい。森が近いからか、具材はきのこが数種類入っており、量も多かった。
次に白米が入った器を手に取り、白米を一口食す。もちもちとした食感と、噛めば噛むほどにじみ出てくる甘さは心落ち着くものがある。
焼き魚は近くの河の魚だろう。確かガーデンの西側にある森の先に河が流れていると地図で見た記憶がヒヅキにはあった。以前行ったスキア襲撃の際には森の先までは行かなかったので、直接見てはいないが。
(それにしても、もう魚を取っているのか)
その事に少し驚きながら、ヒヅキは焼き魚を食す。
皮はパリパリながらもほとんど焦げておらず、中の身は火がしっかり通っているのにふっくらとしていて柔らかかった。それでいて適度に脂がのっているので、白米がすすんだ。
漬物は野菜の漬物で、少しの酸味とコクを感じる。魚や白米と違って歯ごたえもあるので、たまに食感を変えて楽しむのにも役に立つ。
それらを味わいながらも、その美味しさについつい食べる手が進み、ヒヅキは早々に食べ終わる。
ヒヅキは食後に定食と一緒に運ばれてきたお茶を少しずつゆっくりと飲む。その間も女性三人は綺麗な所作で食事を続けていた。
それから程なくして、ヒヅキがお茶を飲み終える前に、三人も食事を終える。
三人が食後にお茶を一口飲むと、そこで店員の女性がやってきた。
「お口に合いましたか?」
「はい。とても美味しかったです。ご馳走様でした」
ヒヅキの感想に、店員の女性は嬉しそうな笑みを浮かべると、食べ終わったそれぞれの食膳を確認して下げていった。