祭り14
四人で机を囲むようにして席に着いたヒヅキは、机に置かれていた品書きを開く。
「あ! これが私のおすすめですよ!」
ヒヅキの隣に腰掛けた赤髪の女性は身体を寄せると、机の上で開いた品書きに書かれている料理名を指差す。
「私はこれです。美味しいですよ」
正面の席に座った青髪の女性が、幸せそうな笑みを浮かべて他の定食を指差す。それを目の前にした時の事を思い出しているのかもしれない。
「わ、私はこれです」
斜め向かいの黄髪の女性が遠慮がちに指を伸ばし、自分のお勧めの定食を教えてくれる。
「なるほど」
それぞれの定食の名前と、その下に書かれている料理の説明文を読みながら、ヒヅキは頷く。そこに新たな声が掛けられ、他の料理の名前を指差した。
「私はこれだね!」
その指の主に目を向けると、先程の店員の女性が笑顔で立っていた。
「それで、注文は決まったかい?」
店員の女性の声に、三人の女性は先程ヒヅキに勧めた定食を頼む。
「お兄さんは?」
「では、これでお願いします」
「お! 分かってるねぇ、お兄さん」
ヒヅキが先程店員の女性が勧めた定食を頼むと、店員の女性は機嫌よくその注文を取っていった。
「あら、私のお勧めはお気に召さなかったかしら?」
店員の女性が去ると、赤髪の女性がしなだれかかるようにしながら、からかうようにヒヅキに問い掛ける。
「それは次に来た時の楽しみにしておきます」
それにヒヅキがそう返すと、赤髪の女性は楽しそうな笑いを零した。
「では、私のは?」
次は青髪の女性が問い掛ける。
「それも次回以降ですね。私はそこまで大食漢ではないので」
ヒヅキは笑みを浮かべると、青髪の女性と黄髪の女性に顔を向けた。
「それにしても、不思議なものね」
不意に赤髪の女性がそう言葉を漏らす。
「何がです?」
それに反応した青髪の女性が、赤髪の女性に何の事かと問い掛ける。
「いえ。いつも図書館でお会いしていた方と、他の場所でお会いするというのが新鮮で」
「それは確かに」
赤髪の女性の答えに、青髪の女性は同意を示す。
「そういえば、今日は図書館はどうされたんですか?」
関連して、ヒヅキはそう三人に尋ねる。図書館の受付はこの三人以外に見た事がなかった。
「昨日今日と祭りの間は図書館はお休みなんです。ですから、久しぶりに三人で外に繰り出していたんです」
「そうだったんですか」
「はい。そうしたらあんな事になってしまって」
「全く。口説くにしてももっと上品にして欲しいわ!」
憤慨する赤髪の女性。それもしょうがないとヒヅキは思うが、そう言えるぐらいには軽傷で良かったとも思えるのであった。




