祭り12
「盛り上がるのも分かりますが、折角の祭りです。節度を持って楽しみましょうよ」
突然背後から掛けられた声に、男の一人がヒヅキに目を向ける。
「あ? ほら、関係ないんだからさっさと祭りに戻れよ」
シッシッと犬でも追い払うように手を振ると、男は面倒くさそうにそう告げてくる。
「いやー、流石に強引に迫っているのを見過ごす訳にはいかないんですよ」
ヒヅキはにこやかな笑みを浮かべながら、穏やかな声音で言葉を紡ぐ。
「何だ、正義の味方にでも憧れているのか? それともお前も混ざりたいのか?」
馬鹿にしたような口調で男が言うと、それでヒヅキに気がついた他の男達がせせら笑う。
そこで女性達もヒヅキの存在に気づいたようで、驚いたような表情を見せる。
「んーそうですね、正義の味方とやらはとうの昔に見限っていますが、それでも真似事ぐらいは出来ますよ?」
にこやかな笑みも穏やかな声音も変わらないものの、その言葉にはどこか挑戦的な響きが混じっていた。
「ほぅ。いい度胸だな!」
そんな挑発にあっさり乗ってきた男の一人が、ヒヅキの横顔に殴りかかる。しかし、それは楽々とヒヅキに正面から掴まれた。
「いきなり殴りかかってくるとは。危ないですよ?」
変わらない表情と口調でそう告げると、ヒヅキは掴んでる男の拳を握りつぶそうとする。しかし、必要以上に騒ぎを起こすのも面倒だと思い直し、腕を引いて男を引き寄せると、近づいてきた男の足を掛けて転ばせる。
仲間が醜態を晒された事で、男達は女性からヒヅキの方へと完全に意識が向く。
殺気立つ男達に、ヒヅキは相変わらずにこやかな笑みを浮かべている。
「調子に乗るな!!」
その余裕の笑みが癇に障った男達が殴りかかってくるも、それらを簡単に捌いては地面に転がしていく。
中には蹴りを行使する者や、刃物を取り出す者も居たが、変わらず瞬く間に制圧されていった。
起き上がった男達はそれを数度繰り返してやっと彼我の戦力差を理解したらしく、逃げるようにして去っていく。その頃には周囲に人だかりが出来ていた。
圧倒的過ぎて見世物と化していた為に、それが終わると周囲から面白かったと、ヒヅキを讃えるような拍手が巻き起こり、ヒヅキはそれに優雅な礼で応えると、余裕を感じさせる堂々とした歩みでその場を後にする。
騒動の渦中にいたはずの女性達は、騒動の途中で何処かへと退避していた。
ヒヅキはそれを気にすることなく、人だかりの抜けた辺りからから気持ち速足で距離を取ると、速度を戻して観光を再開する。
周囲は相変わらず賑わっていたが、ヒヅキはそれに参加せずに離れたところから眺めて回る。
そのままヒヅキがゆっくりとガーデンを観光していると、その背に女性の声が掛けられ、ヒヅキは振り返った。