祭り11
翌朝。結局一睡もできなかった二人ではあったが、仲は少し深まったような気もした。
その後アイリスだけは少しぎこちなかったものの、朝食までが何事もなく終わり、食後の雑談でヒヅキは明日にはガーデンを発つ事をシロッカスとアイリスに伝える。
それに驚かれはしたものの、元々近いうちにガーデンを去る事を伝えていたので、受け容れられた。
その話を行った後、ヒヅキは予定していたエルフの国へと行く前に遺跡を少し回る予定だという事も併せて伝えた。
そうして雑談を終えると、ヒヅキはガーデン滞在最終日の予定通りに祭りを見て回ろうと独りで外に出る。
比較的静かな住宅街を抜けると、ヒヅキは祭りの喧騒に包まれた。
(今日も賑やかなものだ)
前日以上の人混みと耳が痛くなりそうな音に、ヒヅキは妙な感心を覚える。
(中心地は相変わらず混雑しているようだから、今日は更に端の方でも見て回ろうかな)
ヒヅキはガーデンを見て回るつもりではあるが、だからといって混雑しているところにわざわざ出向こうとは思わなかった。そのため、人の流れに乗りながらも中心地からは離れるように移動する。
暫くそうしていると、少しずつ人の数が減っていく。それでもそれなりの人が通りを歩いていた。
ヒヅキは更にガーデンの端へと足を向けて進む。その途中、何処かで聞いた事があるような女性の声を耳が拾う。
誰だっただろうかと思いながらも周囲に目を巡らすと、赤・青・黄の目立つ髪色をした女性が目に留まった。
(あれは確か図書館の?)
図書館の受付に交代で座っている女性三人が道の端の方に居るのを見つける。その周囲を若者から中年までの男達が、十人前後の集団で囲んでいた。
何事だろうかと思い耳を傾けてみると、どうやら男達が三人の女性を誘っているところの様で、それを女性三人は丁重に断っている。
それでもしつこく誘う男性陣に、対応は丁寧ながらも頑としてはっきりと拒絶する三人。逃げようにも囲まれているので移動出来ないのだろう。
男達は最初は穏やかで丁寧な言葉で誘っていたものの、拒否され続けるうちに少しずつ苛立ちはじめたようで、言葉の端端に荒さが目立ち始める。
それを少し離れた場所から目撃したヒヅキは、どうしようかと思案する。
三人を助けるのは非常に簡単だ。たとえ荒事になろうとも、一般人では相手にもならない。それどころか、数名程度であれば冒険者でも容易に圧倒出来るであろう。
ただ、面倒事は文字通りに面倒であった。
三人の女性とは挨拶を交わす程度の浅い仲ではあるが、だからといって知らない相手ではない。なので、もしも男達が手を出すようであれば止めようかなと、ぼんやり決める。
しかし、そんな事をヒヅキが決めている内に自体は急変する。
とうとう我慢できなくなった若い男の一人が、女性の手を無理矢理掴み迫ったのだ。
それに周囲の男性達は言葉だけでは止めつつも、自分達も女性との距離をじりじりと詰めだす。
(はぁ。やれやれ)
それに面倒な、と内心でぼやきつつ移動すると、ヒヅキは男性達の後ろに立って声を掛けた。