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祭り7

 最も賑わっているガーデナー城からガーデン居住区画の中心地までの通りから離れている道を通っているにもかかわらず、ヒヅキ達は人混みに揉まれていた。

 離れ離れにならない様にと繋いだ手のおかげでアイリスと離れることは無かったものの、進みにくいのは変わりない。

 ヒヅキは周囲に目を光らせながらも、半身をアイリスの方に少し傾け、その分僅かに前に出る。念の為にアイリスとの距離を腕が接触するぐらいまで詰める。

 それにアイリスが緊張する気配が伝わってきたものの、くっ付いていた方が進むのも護衛も都合がいいので、ヒヅキは気がついていない振りをした。あまりの混雑具合に、安全という意味では、本当は手を繋ぐよりも腰を掻き抱くぐらいに近寄った方が都合が良いのだから。

「次は何処に向かいましょうか?」

 近寄る事の出来た通りの両脇に出ている露店を冷やかし、大道芸人の芸を堪能したりとしながら、人の流れに逆らわずにゆっくりと進んでヒヅキはアイリスに問い掛ける。

「そうですわね……そろそろお腹が空いてきませんか?」

「はい。歩きっぱなしでお腹が空いてきました」

 空いている手でお腹を擦り、判りやすくそう告げるヒヅキ。

「そうですわよね! では、どこかで何かを買って食事にしませんか?」

「そうですね。何が良いでしょうか」

 周囲に目を向けてみるものの、人が邪魔で満足に確認できない。

「手軽に食べられるものが良いですわね」

「何処かでゆっくりと、は難しそうですからね」

 ヒヅキがアイリスにそう返して先に目を向けたところで、一軒の露店が目に留まった。

「あの店なんてどうでしょうか? パンに様々な具材を挟んでいるようですが」

「何処でしょうか?」

 ヒヅキよりも背が低いアイリスにはその露店が確認出来ないようで、顎を上げたり少しつま先立ちで歩いたりして目を向けている。

「こちらです」

 そんなアイリスを、ヒヅキは丁寧に誘導していく。

 流れに乗りながら二人が道の端の方に移動すると、そこには屋根付きで簡単な調理道具の揃った露店が出店していた。その露店の隣は、建物と建物の間に出来た細い横道が続いているようで、数名であればその横道に一列に置かれている椅子に座って食べられるようになっていた。

 そこで丁度ヒヅキ達の前にその露店で食べ物を買った客がいて、何を売っているのかがアイリスにも確認出来た。

「どうでしょうか?」

「食べてみたいですわ!」

 珍しかったのか、どうやらそれがいたくお気に召したようで、アイリスは目を輝かせる。

 それを受けて露店に近づくと、ヒヅキは二人分のパンを購入し、事前に用意していた代金を支払う。

 パンに挟む具材は数種類用意されていて好きに選べるようであった。中には少々奇抜な食材があったが、アイリスに任されたヒヅキは無難な食材を選んだ。それでも、二つとも違う食材を挟んでもらったが。

 紙に包まれたそれを受け取り横道に移動して、用意されている椅子に並んで腰掛ける。少し昼食には遅かったからか、他に座っている客は居なかった。

「お好きな方をどうぞ」

「ありがとうございますわ! でも、お代は宜しいんですの?」

「はい。以前にアイリスさんに奢ってもらいましたから、今回は私に奢らせてください」

 アイリスがパンを選んで受け取ると、そう言ってヒヅキは柔和な笑みを向ける。それにアイリスは若干顔を赤らめながら、手元のパンに目を落とした。

「で、では、お言葉に甘えまして、食べましょうか」

「はい」

 アイリスはパンを包んでいる紙を少し剥くと、一般的なパンより一回り程大きいそのパンに小さな口をつける。

「パンが少し硬いですが、おいしいですわね」

「ええ。パンの味が抑えられているので、具材の味が引き立っています。パンの硬さは持ちやすく崩れにくいので便利ではありますね。食べるのに苦労はしますが……もう少し水分の多い具材にするべきでしたかね?」

 二人はそう感想を口にしながら、昼食を楽しんだのだった。

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