祭り5
(概ね予想通りとは言え、実際に目の当たりすると気味が悪いものだ)
先程目にした市民の熱狂に、ヒヅキは僅かに顔を歪める。
まだ遠くから聞こえてくる声を背に、ヒヅキはどんどんと暗くなっていく道をシロッカス邸に向けて進み、陽が落ちた頃になって、ようやくヒヅキはシロッカス邸に到着した。
それから着替えなどを済ませたヒヅキは、ヒヅキの帰宅を待っていたシロッカスとアイリスと一緒に、いつもより少しだけ遅い晩御飯を摂った。
食事を終えると、軽く雑談を交わす。そこで明日からの祭りについて簡単に話し合った。
「街は熱気に溢れていただろう?」
「はい」
「それだけ追い詰められていたという事だが、少々おかしな方向に盛り上がりかねないから心配だ。明日はアイリスの事を頼むよヒヅキ君」
「はい、お任せください」
シロッカスの言葉に、ヒヅキは頷き了承する。少し前に目撃したあの狂乱には出来れば近づきたくは無かったが、アイリス一人だけであれば護る事は容易であろう。それだけの能力をヒヅキは有しているのだから。
「ならば安心だ」
それはシロッカスも理解していたので、安堵の表情を浮かべる。
「これでスキアについては終わるだろうが、次は政治的な面倒事が起こりそうだな」
「そうですね」
シロッカスがどこまでの情報を得ているかは分からなかったが、それでもこれからもまだ波乱が待っている事は誰の目にも明らかであるために、ヒヅキはそれに同意を示す。
「さて、私はこれをどう乗り切るかな」
そう言うと、シロッカスは一瞬だけ仕事の時の顔を見せる。
「御父様。それは後でよろしいではありませんか」
しかしアイリスにそう窘められて、シロッカスは「そうだな」 と小さく笑って元の顔に戻った。
「それよりも、明日の御祭りは楽しみですわね。ヒヅキさん」
「そうですね。アイリスさんは何処か見て回りたいところはあるのですか?」
「明日何があるのか詳しくは存じ上げませんので、決めてはおりませんわ。ですから、一緒に決めていきましょうヒヅキさん」
「それもいいですね」
ヒヅキとアイリスは互いに微笑み合いながら穏やかに会話を続ける。
それを見守っていたシロッカスは、お似合いの二人だと心の内で思う。しかし、それを実らせるには骨が折れることも承知していた。
(ヒヅキ君はアイリスの事を嫌ってはいないようだが、恋仲になるのは難しそうか。そもそも、彼が誰かに心を寄せる事があるのだろうか? そんな相手が居るのならば是非見てみたいが、願わくばそれがアイリスであればいいな)
会話を弾ませる若者二人にシロッカスは人の親として、また年長者としてそう思わずにはいられなかった。