祭り4
その後も日暮れ前まで調べたヒヅキではあったが、一部の遺跡の場所と、幾つかの遺跡には魔物がうろついているかもしれない事以外には何も分からなかった。
(十分な成果だな)
それでもヒヅキは満足そうに図書館を後にする。何故なら、ヒヅキは元々遺跡の場所さえ分からないという可能性も想定していたのだから。
(場所が分かったことだし、アイリスさんと街を回ったら、エルフの国の前に遺跡に向かうとするかな)
そう思ってヒヅキが大通りに差し掛かると、人が広間に集まっているのが離れた場所からでも確認出来た。
(何だ?)
それを不審に思い、ヒヅキは広間の方へと近づく。
しかし、人垣が邪魔で途中までしか近づけなかった。そのため、ヒヅキは近くに居た男性に何事かと問い掛ける。
「ああ、俺も直接見た訳ではないが、何でも噂通りにスキアを撃退したらしくてな、急だがそれを祝して明日から2日間お祭りを催すらしい」
「祭りですか?」
「急な割には盛大なモノらしいぞ。流石カーディニア王様だ! と言いたいところだが……」
そこで男性は、内緒話でもするかのように声を落とす。
「実はカーディニア王はソヴァルシオンに逃げたらしくてな、それで今回のスキア撃退や戦勝の祭りは、唯一ガーデンに残ってくださったエイン王女殿下のお力らしい」
「そうなのですか?」
「ああ。俺の知り合いに軍に勤めているやつがいるんだが、そいつがカーディニア王が逃げたところやエイン王女殿下がスキアを殲滅してくださったのを見ていたらしい」
「そうなのですか!」
ヒヅキは傍から見ればわざとらしいまでに目を見開き大きく驚く。それに男性は気分を良くして更に話を続ける。
「何でもカーディニア王だけじゃなく王妃や第一・第二王子も一緒に馬車で逃げたらしくてな……、あいつら俺らを見捨てやがったんだよ!」
話していて思う事があったのだろう、途中から声を荒げて鼻から勢いよく息を吐き出す男性。その声は周囲の民に聞こえていたが、その誰もが男性と似た憤るような表情を浮かべている。
「だけどな! 我らがエイン王女殿下はそんな奴らに追従される事なくガーデンに残られ、我らを導いて下さった! 更にはエイン王女殿下のご意思に従い忠義の騎士が一人でスキアを殲滅したという! 信じられないが本当の事らしいぞ! 先日の日中なのに輝いた眩い光を覚えているか? あれは忠義の騎士がスキアを屠った魔法らしい!」
人々に英雄譚でも語り聞かせるかのように熱の入った演説に、周囲から囃す声や拍手が送られる。
「それだけじゃない。その前の南門が壊されたスキア襲撃もその騎士が護ってくださったらしくてな! その後の補修などの迅速さといい、本当にエイン王女殿下は素晴らしい御方だ! アンタもそう思うだろう!? なぁ!?」
男性の声に、ヒヅキは「そうですね」 と頷く。
「それで、その忠義の騎士とはどのような人物だったのですか?」
「ああ、なんでも右の頬に大きな傷跡がある黒髪の男らしい」
「他には何か特徴はなかったのですか?」
「さぁ。他は知らないな」
「そうですか」
「だが、忠義の騎士が行った偉業の話はしてやろう!」
男性はまだ熱が引かないようで、それから忠義の騎士やエインの様々な話をしては讃えだした。
それに周囲も熱狂しだし、ちょっとした騒ぎになっていくが、その熱気の輪の中を、ヒヅキは隙を見て密かに脱出したのだった。