ガーデン防衛63
エインの元から離れたヒヅキは、シロッカス邸を目指して移動を開始した。
王宮から居住区に出るときだけ魔法を使い、その後は徒歩で移動していた。
(流石に疲れた。魔砲は威力は高いが、消耗する魔力量が多すぎるな)
少しふらつく足に力を入れて、ヒヅキはシロッカス邸を目指す。
現在ヒヅキが重い足取りで歩いている通りは、人の姿は相変わらず少ないながらも、スキア撃退の報が広がっているのか、どこか熱気に満ちている。
しかしヒヅキはそれを気にする事なくガーデンの道を進み、一時間以上かけてシロッカス邸に辿り着いた。
シロッカス邸では、ヒヅキが戸を叩くと、直ぐにシンビが出迎えてくれる。
帰宅したヒヅキは、そのまま風呂場へと案内された。
そこで移動と戦闘で汚れた身体を洗い流し、スキアの中を突っ切った事でボロボロになってしまった服を着替える。事前にシンビに説明されていたが、少し湯が冷えていた。それは熱い湯が苦手なヒヅキにとっては好都合ではあったが。
着替えが終わると、ヒヅキはシンビにシロッカスの書斎へと案内される。
入室許可を貰って書斎の中に入ると、そこにはシロッカスとアイリスの姿があった。
挨拶もそこそこに勧められて席に着くと、その間にシンビが用意した飲み物が目の前の机の上に置かれる。
「ありがとうございます」
それに礼を言うと、ヒヅキは温度の高い液体が入ったカップを口元に持っていく。それで心安らぐ香りがふわりと鼻孔をくすぐり、ヒヅキはシンビに良い香りだと笑みを浮かべて伝えた。
そうして香りを楽しんだ後に一口液体を飲むと、上品な苦みが舌の上に広がる。
香りだけではなくその苦みも堪能してからカップを机に置いて一息つくと、内に溜まっていた疲労が浮かび上がり息と一緒に出ていくような感覚を覚えた。
「気に入ったようだな」
ヒヅキのそのホッとした様な反応に、シロッカスがそう言葉を掛ける。
「ええ、心が落ち着くようです」
穏やかな笑みを浮かべて、ヒヅキは言葉を返す。
「それはよかった。今日は疲れただろうからな」
シロッカスの労いに、ヒヅキは頭を下げる。そこで、頬の傷の事を思い出した。
「ああ、そういえばこれがこのままでしたね」
ヒヅキが傷ごと頬を覆うように手を置いた後にその手をどかすと、そこに在ったはずの傷はすっかり消えていた。
「おお! 本当に跡形もなく治るのだな!」
それにシロッカスが驚愕の声を上げる。
「これで少しは印象が変わればいいのですが」
若干苦笑気味にそう口にしたヒヅキに、シロッカスは頷く。
「うむ。目立つ傷だったからな、大半の者の目はまずそこにいっただろうさ。そして、頬に大きな傷のある人物という認識を持っただろう」
そんな風にヒヅキとシロッカスが会話をしていると、アイリスが我慢ならないとばかりの勢いでヒヅキに声を掛ける。
「それで、スキアはどうなったんですか!? 御話を御聞かせ願えませんか!?」
「ええ勿論」
それに頷くと、ヒヅキはアイリスとシロッカスに今日あった出来事を話し始めた。