家族
家に帰ると、ヤッシュたちは食卓を囲んでいたが、普段なら既に食事を終えている時刻にもかかわらず、食事を始めずにヒヅキの帰りを待っていた。
「おかえり、無事に帰ってこれたようだな」
ヒヅキが姿を見せると、ヤッシュはホッとしたように肩の力を抜いて、そう迎え入れてくれた。
そんなヤッシュに続き、ヤトとアートもヒヅキを「おかえり」と優しく迎え入れる。
家族というものなら当たり前なのだろうその光景が、今のヒヅキにとっては妙に温かくて、それでいてヒヅキ自身にも明確には説明出来ない心の片隅にある何かを刺激して、何故だか無性に泣き出しそうになったが、それをグッと堪えたヒヅキは、「ただいま」と、笑顔で三人にそう応えた。
その後、ヤトが準備していた食事を囲みながら、四人は夕食を摂る。
その合間合間に、今日行った小鬼討伐の話を簡単に話した後、全員が夕食を食べ終わる頃に、ヒヅキは本題に入ることにした。
「今度はソヴァルシオンに行こうと思う。そして、そのまま世界を旅したいとも考えている」
ヒヅキの突然の話に、ヤッシュもヤトもポカンとしたような表情を浮かべたが、アートはそんなヒヅキに興味深げな視線を向けていた。
「突然どうしたんだ?」
驚いて固まっている両親の代わりに、珍しくアートがヒヅキに問いかけてきた。
「実は先ほどの話に出てきた冒険者の方々に誘われて―――」
ヒヅキが冒険者と交わした会話の要点を簡潔に話すと、
「ハハッ、それは丁度よかったじゃないか」
アートは小さく笑ってそう続けた。
普段の無愛想なアートとの違いに僅かに戸惑いを感じつつも、ヒヅキはアートの言葉に、「丁度いい?」と首をかしげる。
「ヒヅキ、お前は昔から外に出たがっていたじゃないか。だから丁度いい機会だと思ってね」
アートのその指摘は、ヒヅキ自身がこの話を冒険者にされてやっと気づいたことだっただけに、つい、まじまじとアートの顔を見てしまった。
それにアートは小さく肩をすくめる。
「それぐらい見てれば気づくさ。お前が俺をどう思っているかは知らないが、俺にとっちゃお前も家族だからな、気にかけるぐらいはするさ」
アートにそう返されて、ヒヅキは恥ずかしいような申し訳ないような微妙な表情で目を逸らした。
「だからさ、親父も母さんも知ってたろうに、今更そんなに驚かなくてもいいだろ」
アートは両親に目を向ける。
「まぁ………、そうだな。急な話で驚きはしたが、そう言われれば今更って感じではあるか」
ヤッシュは小さく笑ってからヒヅキにしっかりと向き直ると、真剣な顔で話はじめた。
「ヒヅキ、お前が行きたいなら行けばいいさ、止めはしない。だがな、これだけは覚えておけ、ここはお前の家で、俺達はお前の家族だ。疲れたらいつでも帰ってこい!お前の部屋はちゃんと残しておいてやるからな!もちろん、何の用がなくても帰ってきていいがな!」
そう言って、ヤッシュは豪快に笑う。
ヤッシュと同じ意見だと言うように、ヤトもヒヅキに優しく微笑み掛けた。
そんな二人に、やれやれと言わんばかりにアートは肩をすくめた。
そんな三人の様子に、ヒヅキは久しく忘れていた家族というものに触れた気がして、照れくさそうに小さく笑ったのだった。