ガーデン防衛62
最後のスキアは、ガーデンから南東に馬車で一日ほど進んだ街道近くに居た。
(通行人を襲っていたのだろうか?)
その最後のスキアを奇襲であっさり消滅させたヒヅキは、スキアが居たのが街道近くという事でそんな事が頭に浮かんだ。しかし、周囲に馬車の残骸や死体が見当たらないので、たまたまそこに居ただけなのかもしれない。
(戻るか。他にスキアの反応もないようだし)
ヒヅキは周囲の気配を丹念に探りスキアの反応がないのを確認すると、ガーデンに向けて移動を開始する。
(やはり移動が面倒だな)
魔力残量が心許ない為に、魔力消費量を抑えての移動を行う。速度を落としたために、ガーデンに到着するのに数時間を要した。
既に日付が変わってそれなりの時間が経過していたが、エイン達は城壁の上で戦闘態勢を整えたままヒヅキの帰還を待っていた。
「ただいま戻りました」
そんなエインの前に、ヒヅキは再度片膝を着いた状態で現れる。
「して、首尾は?」
「ガーデン周辺のスキアの殲滅が完了致しまして御座います」
「そうか」
ヒヅキの報告を聞いたエインは重々しく頷き、戦闘態勢を整えていた兵士達に告げる。
「ガーデンの脅威は去った! 皆、今宵は枕を高くして眠ることが出来るぞ!」
その宣言に、周囲の兵士達は一気に沸く。それを満足げに頷くと、エインはヒヅキに声を掛けた。
「ご苦労だった、私の剣よ」
「勿体なきお言葉で御座います」
それが済むと、エインはカレジへと顔を向ける。
「少し休むが、後を任せていいか?」
「御任せ下さい」
「うむ。では任せた。私は一旦王宮に戻って、民や兵達への宴の準備でもしておこう。こういうのは盛大に行った方がいいだろうからな」
「はい」
カレジは恭しく頭を下げた。
「では行くぞ!」
そう言うと、エインはヒヅキとプリスを伴い城壁をゆっくりとした速度で堂々と下りていく。その途中で兵士達へ労いの言葉を掛ける事も忘れない。
「感謝するよ」
その道中、エインは一歩後ろを歩くヒヅキとプリスにしか聞こえないような小さな声で感謝を告げる。
「私の立案ですから」
それにヒヅキは小さな声ながらも、相変わらずの調子で言葉を返す。
「そうか。それでも私は君に感謝している。それだけ伝えられれば今は良しとしよう」
ヒヅキの性格に慣れてきたエインは、そう告げただけで言葉を収める。
それからエインは、ヒヅキとプリスを伴い王宮に帰還する。そして、王宮内に入り衆人の目が完全に無くなったところで、ヒヅキは一言断りを入れてエインの傍を静かに離れたのであった。