ガーデン防衛60
スキアが射程圏内に集まるまでヒヅキは休憩時間に入っていた。
(こういう時はスキアの足の速さが有難いな)
人間の脚では何時間も掛かる距離を一瞬で詰めてくるスキアの速度は、戦闘時においては脅威でしかないのだが、広範囲から一ヵ所に集めたい場合にはとても便利なものであった。
(あと少し、もう少し)
反応しているガーデン周辺のスキアの様子を監視しながら休憩しているヒヅキは、射程外のスキアの動向を注視しながら黒き太陽の様子も確認する。
(まだも数十分しか経っていないのだが、少し弱ってきたな。これは外れだったか?)
起動したての頃よりも気配が小さくなった黒き太陽に、ヒヅキは難しい顔を浮かべる。
(スキアが集まるまでは保ちそうではあるが、魔砲が放てる時間は少なそうだ)
現在スキア達は、触れる事の出来ない黒き太陽を中心に身動きが取れない程に密集している。その様は、ヒヅキにはどことなく狂信者の集いの様に思えた。
(……黒き太陽とは一体何なんだろうな)
ヒヅキがそう疑問に思ていると、魔砲の射程圏内に反応していた全てのスキアが入る。
(それでは始めますか)
ヒヅキは人の頭ぐらいの大きさの球状の魔弾を生成すると、8個の輝く砲身を出現させる。そして黒き太陽を目印に、その大きな魔弾を砲身に向かって投げた。
大きな魔弾は、それにふさわしい大きさの砲身を通過して速度と威力がどんどん増していく。
ヒヅキが放った魔弾は大きな放物線を描き、狙った通りに黒き太陽のある場所に着弾する。そして、日中でありながら太陽が落ちたかのような眩しさがガーデン周辺を包み込む。
その目を瞑り逸らして尚眩しい光が収まったのを感じたヒヅキが目を戻すと、そこに広がっている光景に自分でやったことながら頭が痛くなる。
先程までスキアが密集していた場所は、広範囲にわたり大きくえぐれて地面の色が完全に変わっていた。当然ながらスキアは悉くが消滅していた。
(やはりこれは気軽に使うものではないな)
そう改めて心に決めると、ヒヅキは黒き太陽に目を向ける。
そこには消える寸前の弱弱しい気配ではあるが、地形が大きく変わる程の攻撃魔法が直撃しながらも、変わらずその場に浮いている黒き太陽の姿があった。
(こちらからは干渉できず、あちらからも干渉できず。か)
エインから受けた説明を思い出し、それを実際に目の当たりにした事で、俄然黒き太陽に興味が湧いてくる。
(いつか遺跡も調べてみるか。いや、この後に調べてみてもいいが……)
黒き太陽がもうすぐ消えると判断したヒヅキは、黒き太陽が消えるまでその場で待機してから一度ガーデンに戻る事に決める。
それから十分と経ったかどうかという時間の後に、ヒヅキが使った黒き太陽は消失した。