ガーデン防衛57
シロッカスとアイリスとの雑談を終えたヒヅキは一度部屋へと戻り、シロッカスに頼んで用意してもらった上等な服に着替えてからシロッカス邸を後にする。
ヒヅキが向かった先は北側にある第三の門の前。
そこには離れたところからでも確認できる程に華美な鎧で武装したエインが、いつもの侍女服ではなく軽装ながら武装したプリスと老齢の男性を横に連れて待っていた。その後ろには完全武装した物々しい兵士達が立ち並ぶ。エインんの護衛だろうか。
「よく来てくれたな」
ヒヅキの姿を確認したエインは、近くにまでやって来たヒヅキにそう声を掛ける。
頬の傷についても今回の作戦の一つなので、エインももちろん知っていたから驚くような事はない。最初に遠目で見た時に微かに目を見開いたが、反応といえばそれぐらいだ。
「おはようございます殿下。殿下の御為でしたら、どこへなりとも馳せ参じましょう」
兵士達の手前、ヒヅキはいつも以上に礼儀正しく振る舞う。
「そなたがヒヅキという者か?」
エインの脇に控えていた老齢の男性が、そんなヒヅキへと値踏みするような目を巧妙に隠しながら向けつつ言葉を発する。
「そうで御座います」
巧みに隠してはいるが、そんな目を向けられている事にヒヅキはしっかりと気づいていた。しかし、それも仕方のない事かと思い、気づかぬ振りをしながら神妙な声音で言葉を返す。
「そうか。私はカーディニア王国宰相を務めているカレジだ。今日はよろしく頼む」
歳を重ねた者特有の重みのある声ではあるが、カレジの声は明瞭にヒヅキの耳に届く。
「御任せ下さい」
恭しく頭を下げたヒヅキに、カレジは満足そうに頷いた。
「さ、挨拶も済んだことだ、第一の門の先まで行こうか」
そんなカレジの態度に、ごくごく僅かに苛立ちの雰囲気を纏ったエインは、そうヒヅキに告げる。
「はっ」
それにヒヅキが了承の声を発すると、エインを先頭に門を潜っていく。
門を3つ過ぎると、ガーデンの外に出る。
こんな時でも僅かに居るガーデン入国を待つ者の姿は、今日は無かった。おそらく事前に全員の入国検査を済ませたのか、別の門へと移動させたのだろう。
「それでは頼んだぞ」
「御任せ下さい。殿下の御為に」
まるで忠誠を誓うかのように膝を折り、深々とエインに頭を垂れるヒヅキ。
普段のヒヅキを知る者であれば、その姿がわざとらしい態度だと思っただろうが、何も知らない兵士達にヒヅキがエインの剣である印象を強く抱かせるには必要な儀礼であった。忠臣の方が、ただの傭兵の活躍よりもエインの名声が高まるのだから。
それが終わると、立ち上がったヒヅキは数歩離れてもう一度エインに恭しく頭を下げる。
「それでは行ってまいります」
そう告げると、兵士達から見て、まるで一瞬で消えたかと思うほどの速さでヒヅキは移動を開始する。目指すは北側に居るスキアの群れの中央から奥地の辺りであった。