ガーデン防衛52
プリスの先導でヒヅキが食堂に到着すると、先に向かっていたエインが一人椅子に腰かけて待っていた。
屋敷の大きさの割に食堂は広くはなかったが、それでも十人以上で机を囲めるぐらいの広さがある。
その食堂の中央には幅の広い長机が置かれているが、長さがそこまで無い為に、見る者にずんぐりとした印象を抱かせた。
その長机には純白の布が掛けられており、中央付近には薄桃色の無地の花瓶が置かれていた。その花瓶には黄や赤や白などの色とりどりな花が生けられている。
その花の香りだろうか、食堂には上品な甘い香りが淡く満ちていた。
ただ、この食堂は屋敷一階の中央付近に位置する為に、窓が無かった。その代り、天井から魔法光を降り注いでいる品の良い飾りが幾つも吊り下げられているので暗いという事は無かったが、ヒヅキの記憶では魔法光を使った照明器具は結構値が張る代物であった。この辺りは流石殿下付きの侍女といったところか。
ヒヅキが食堂に足を踏み入れると、エインが「遅かったではないか」 と声を掛けてくる。その様子はいつものエインのように見えた。
「遅くなりました」
そう応えながらも、ヒヅキは扉の近くのエインから離れた位置に座る。
「私達三人以外居ないのだ、もっと近くに来ればいいではないか。そこでは話すのも大変だろう」
自分の隣の空席を示し、エインは隣に来るようにとヒヅキを手招きする。
それにヒヅキは少し迷う素振りを見せたものの、席を立つと、エインが示した隣の席に移動した。
「ふふふ。本当に来るとは思わなかったぞ」
エインは上機嫌ながらも、からかうような口調でそう告げる。
「では戻りましょうか?」
「いや、私が招いたのだ、そこで一緒に食事をしよう。それにしても、誰かとこうして隣り合わせで食事をするというのは初めての体験でドキドキするな」
そう言いながら、エインは照れたような笑みを浮かべた。
「そんなに大層なモノではありませんよ」
「それでも嬉しいのだ。それに初めての相手が君だからな、余計に嬉しいものだ」
「はぁ。そういうものですか」
「そういうものだ」
呆れた様なヒヅキに、にこやかにエインが返したところで、プリスが食事を持って入ってくる。
プリスは横に並ぶエインとヒヅキを見ても、特に何の反応も浮かべない。
そのまま持ってきた食事をヒヅキとエインの前に並べ始める。
「プリスも一緒に隣で食べようではないか」
エインは機嫌よく空いていた、ヒヅキが座った席とは反対側の席をプリスに勧めた。
「いえ、使用人としてそれは御断り致します」
断るプリスをなおもエインは誘うが、それでもプリスは難色を示す。
「三人だけだ、私的な場ぐらいよいではないか」
困ったような笑みを浮かべるエインに、プリスは僅かに目を泳がせた後、とうとう折れたのだった。