ガーデン防衛50
「君がくれたあのお守りのおかげで私は生き返ったのだが、スキアの襲撃があったのがその後だ。君が戦っている事を報告で知った私は、残って力を貸してくれている冒険者に向かってもらい、今後の事について宰相のカレジを含む残っていた王の側近達と会議を開いた。それで、一時的に私が王の代役となってしまった。今ガーデンに滞在している王の血縁者は、私を除けば二人しかいない。そして、その二人は現王からは遠すぎるのだ。何代か前の王の親族と婚姻結んだぐらいの関係だからな。つまりは、不本意ながらも現王の娘である私しか適任が居なかった訳だ」
エインは疲労の濃い表情を浮かべる。
「そのせいで休む暇なく仕事漬けだよ。スキア襲撃の事後処理も多くてな。幸い君のおかげで死傷者は少なかったが、門があのままでは南への出入りもままならんしな。全く、あの馬鹿は余計な事しかしやがらない!!」
珍しく声を荒げるエイン。
「しかも、どこからか王達が民を見捨ててガーデンから逃げたという話が広まってな、その対策に追われる始末。実際は賊の王妃と第二王子だった者たちに誘拐されたのだが、当人たちが居ないのでは火消しが大変でな、とりあえず王には病気になってもらったが、効果はいまいちだな。何処かに目撃者でも居るのだろう、面倒な事だ。ああ、王妃と第二王子の凶行は会議で伝えたから、二人の処置は大体決まった。血だらけの私を見た時のアイツらの顔は見ものだったぞ」
喉元に軽く触れながらクックと喉を鳴らすエインの笑みは、悪い笑みのようにみえた。
「その合間にプリスに頼んで君を探していたのだが、結果はこの通りさ」
エインは両手を広げると、肩を竦める。
「では、今も忙しいのでは? ここに居てもいいのですか?」
ヒヅキの問いに、エインは心底面倒そうに盛大に息を吐いた。
「確かに忙しいさ。だが借りばかりが増えていく相手に、大恩人に会う方が重要だ。その為に君を捜索している間に寝食を忘れて仕事をこなしたのだからな。おかげで、こうしてここで少し仕事をしさえすれば朝までは時間をつくれたが、おかげで肌も髪もボロボロだ。体重も一気に落ちてしまったではないか」
エインはヒヅキに冗談っぽく笑いかけると、ビシッと音がしそうなほど勢いよくヒヅキを指差す。
「だから、今宵は朝まで私の相手をしてもらうぞ!」
不機嫌な駄々っ子のような表情のエインに、ヒヅキは困ったように頭をかく。
「分かりました。話し相手ぐらいにはなりましょう」
「ん? 何を言っている。話し相手だけではなく、私の抱き枕にもなってもらうぞ。私はもう三日、いや四日も寝てないんだからな! そろそろ冗談抜きに倒れるぞ!」
不満げに鼻から息を吐き出したエインに、ヒヅキは苦笑を浮かべる。
「では、もう寝た方がいいのでは?」
「まだ話したい事がある……が、そうだな、こうして君の顔を見て話が出来たせいで安堵したのか、本格的にやばそうだ」
エインは目元を押さえると、頭を振って飛びそうな意識を繋ぎ止める。
「すまないが、そこのベッドまで抱えて運んでくれないか?」
ヒヅキに両手を差し出すと、エインは弱弱しくそう頼む。
「……分かりました」
ヒヅキは立ち上がると、エインの背中と脚に手を入れ、横抱きに抱え上げる。そうすると、エインがヒヅキの首に腕を絡める。
その状態のままベッドの上に運びそっと下ろすと、エインはヒヅキに強く抱き着き、ベッドに引き入れた。
「エイン?」
「……このまま寝かせてくれ」
身体の位置を変えて押し倒すようにヒヅキの上に乗ったエインは、ヒヅキの胸元に顔を埋めたまま小さくそう告げた。
「…………分かりました。おやすみなさい」
小さく震える手に気づいたヒヅキは、あやすようにエインの頭を優しく撫でながら、安心させるように背中をポンポンとリズムよく小さく叩く。
「ありがとう。……これでやっと眠れそうだ」
震えが止まったエインは、そう呟くと穏やかな寝息を立て始めた。