ガーデン防衛48
エインが語るは王妃と第二王子が起こした愚行の一幕。
それをヒヅキに話すエインは顔を伏せてはいるが、口調は淡々としていた。
「そういう事があったのだよ」
それを聞いたヒヅキは、少し考え問い掛ける。
「それでは、あの黒き太陽を使用したのは王妃か第二王子ですか?」
「状況を考えればそうだろうな」
顔を上げたエインは、困ったように肩を竦めた。
「なるほど。それで当たりを引いたと」
「ああ。君が居なければ、確実にガーデンは他の砦同様にスキアによって蹂躙されていた事だろう。本当に感謝する。それに、貴重な魔法道具まで使わせてしまって……」
腕をダラリと身体の横で力なく垂らし、エインは申し訳なさそうな表情を見せる。
「ああ、あれなら別に気にしてませんよ。役に立ったのならばよかったです」
そう言いながらヒヅキはそんなエインの様子を眺め、僅かに考える。
「……お疲れ様です。恐かったですね」
ヒヅキの優しい声音の言葉にエインは顔を上げると、泣きそうな顔になり立ち上った。
「……君が居てさえくれれば」
エインはヒヅキに近づき胸倉を掴むと、一瞬堪えるようにヒヅキを見つめるも、直ぐに力なく膝を折って顔をヒヅキの胸元に押し付ける。
そんなエインの頭を、ヒヅキは母親のように優しく撫でた。
室内に静かな時間がゆっくりと流れる。
「恐かった、恐かったよ」
くぐもったような涙声で弱音を吐くエインの頭を、ヒヅキは黙って優しく撫で続ける。
「何で、何で私ばかり。私は王位など要らないというのに、何故こうも愛情とは無縁なのだ」
しばらくの間そうしていると、エインは満足したのか顔を上げて、ばつが悪そうに赤い目をヒヅキに向ける。
「……今のは他言するなよ」
「ええ、勿論ですとも。エイン」
「むぅ。そこでそれは卑怯だ。君は思っていた以上に悪い男のようだな」
エインはヒヅキを恨みがましく見上げながら頬を膨らませる。
「お嫌ですか?」
ヒヅキはポケットからハンカチを取り出すと、それを差し出す。
「言わせるな、知っているのだろう」
エインはそれを奪うように受け取り立ち上がると、そっぽ向いてハンカチで目元を拭いながら向かいのソファーに戻っていく。
「君には訊きたい事が色々あるんだ」
ソファーに腰掛けたエインはヒヅキに向き合い、不機嫌っぽくそう言い放つ。
「何でしょうか?」
そんなエインにヒヅキは微笑みかける。
「むぅ。その余裕そうな感じが気になるが、まあいい。まずはそうだな、一応確認しておくが、あの日スキアの侵攻を南門で防いでくれたのは君で間違いないか?」
「ええ、そうです」
「やはりそうか。君以外には居ないが、それでも信じられない戦果だったな」
あがってきた報告の内容と、冒険者のカタグラが記録していた映像を見た時の事を思い出し、エインは感心とも呆れともとれる息を吐き出した。