ガーデン防衛45
何かを探っている者達の間を縫うようにしながらシロッカス邸の近くまで戻ってきたヒヅキは、シロッカス邸の前で立っている二人の人物に目を向ける。
(あれは……)
そのままその人物達に近づいたヒヅキは、優しく声を掛けた。
「そんな所に立たれてどうかされましたか? アイリスさん」
その声に反応したアイリスは、ヒヅキの姿を確認するなり駆け寄ってくる。
「ご、ご無事でしたか! 良かったですわ」
アイリスはヒヅキの前で立ち止まると、大きく安堵の息を吐いた。
「ご心配をおかけしたようで申し訳ございません」
そんなアイリスに、ヒヅキは謝罪するように頭を下げた。
「い、いえ! ヒヅキさんは何も悪くありませんので、頭をお上げください!」
頭を下げたヒヅキに慌てたアイリスは、わたわたとしながら頭を上げるようにお願いする。
「ですが……不謹慎ながらも、心配して頂けるのは嬉しいものですね」
そう言ってふわりと柔らかく微笑むヒヅキに、アイリスは顔を赤らめ、視線を忙しなく周囲に向ける。
「と、当然の事です! その、私にとってヒヅキさんはか、家族みたいなものですから!」
照れながらそう伝えたアイリスに、ヒヅキは僅かに驚いたような表情を浮かべると、優しい笑みを浮かべた。
「私みたいなものに、ありがとうございます」
しかし、アイリスにはヒヅキのその笑みも言葉も哀しいもののように思えて、胸がちくりと痛む。
「えっと、お顔の傷は大丈夫ですか? それにお召し物も」
そんなヒヅキを見ていられなくなったアイリスは、目についた事を問い掛けて話題を変える。
「顔の傷、ですか?」
アイリスの問いに意外そうな表情をして、ヒヅキは自分の顔を確かめるように手で触れる。
「ああ、顔の傷は盲点でした」
それで小さな傷が幾つも付いている事を確認したヒヅキは、自分の顔に回復魔法を施す。
「これでどうでしょうか?」
ヒヅキがそう問い掛けるも、アイリスは驚きの表情を浮かべたまま固まっている。
「アイリスさん?」
そんなアイリスに、ヒヅキは心配そうに呼びかけた。
「は、はい!」
それで我に返ったアイリスは思わず大きな声を出してしまい、慌てて恥ずかしそうに口を押えた。
そんな仕草に好意的な笑みを向けながら、ヒヅキは再度確認の問いを行う。
「これで傷は治ったでしょうか?」
「はい、まるで傷などなかったかのようですわ」
「それはよかった」
アイリスの返答に、ヒヅキは安堵の息を小さく吐く。
「ヒヅキさんは治癒の魔法も扱えるのですのね」
その言葉に、ヒヅキはアイリスが何故驚いていたのかに思い至る。
「つい最近修得したばかりですが、珍しいですか?」
「はい。魔法を扱う冒険者の方々の中でも、治癒魔法が使える方は多くは無いと聞いておりますわ」
「そうなんですか」
ヒヅキは頷きながら、カトーは貴重な魔法の使い手だったのかと認識を改める。
「ですから、癒しの魔法が扱える方は引く手数多だと言われていますわ」
「なるほど、でしたらこれはあまり人前で使わない方いいですね。貴重な情報をありがとうございます」
他人の前で使う前に知れてよかったと内心で胸をなでおろしながら、アイリスに礼を言う。
「それで、ここで立ち話もよいのですが、服も着替えたいので中に入りませんか?」
そこで誰かが近づいてくる気配に気づいたヒヅキは、自然な感じでアイリスにそう提案する。
「そ、そうですわね。ヒヅキさんにお会いできた嬉しさのあまり失念していましたわ」
アイリスは恥ずかしそうにしながらも、ヒヅキの手を少し掴んで家へと戻っていく。
玄関では、アイリスと一緒に待っていたシンビが、玄関の扉を開けて待っていた。