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ガーデン防衛38

 スキアが押し寄せてくるのを察知して急行したヒヅキが南門に到着したのは、スキアに第一の門が破壊された瞬間ぐらいであった。

 壁を二つ越え、やっと到着した三つ目の門が目の前で壊されたのを目撃したヒヅキは内心で舌打ちをする。

(間に合ったとも、遅かったとも言えるな)

 壊された門から雪崩れ込もうとするスキアへと、ヒヅキは突撃しながら光の剣を現出させる。

(ここに来る途中に妙な黒い煙を見た、あれが殿下の話していた黒き太陽だとすると、数十分から三時間ぐらいはここで耐えなければならないのか)

 その耐えなければならない時間の幅に、ヒヅキは覚悟を決める。いくらほぼ万全の状態とはいえ、数十分ならまだしも三時間は流石に光の剣を維持できない。

 今回の戦闘において、不本意ながらも第一の門が壊された事はヒヅキにとっては利となる部分であった。それは、エインが語ったスキアの特性。

 黒き太陽使用時、何処かの壁に穴が開いた場合は、付近のスキアは他の城壁には目もくれずその穴に殺到するので、防衛がしやすくなるという事。

 ただし、こちらも不本意ながら攻め入ってきたスキアとのガーデン防衛戦に突入してしまった為に、魔砲が使用できなかった。魔砲を使用してしまえば、城壁ごと一帯を吹き飛ばす事になる。

(つまりは俺が不利、という事か)

 殺到するスキアを瞬殺しながら、ヒヅキは光の剣の出力を微調整する。最小の出力で戦わなければ持久戦は行えない。

 幸いと、ヒヅキは身体強化については十年以上掛けて極限までモノにしているので、そちらの心配は必要なかった。

(冒険者不在。援軍は望めず、と)

 周囲の兵士もスキアを攻撃しているものの、スキアの速度についていけていない。

 傍からヒヅキとスキアの戦闘を観戦している兵士の目には、ただ無数の光の線が夜の闇に浮かび上がっているだけで、誰かがスキアと戦っているぐらいしか理解できていなかった。

 ヒヅキはただひたすらに光の剣を振るい、スキアを一体、また一体と、あり得ない早さで消し去っていた。それは冒険者でも不可能な速度での高速戦。

 かつてエインはヒヅキをただ一人で冒険者数十人分の戦力と評したが、万全のヒヅキが本気で戦った場合、それは数百人でも全く足りていない。しかしそれは戦う場所にもよるうえに、元々の魔力量が使用魔法に比べて少ないヒヅキは、持久戦を苦手としていた。

(今どれだけ経過した? もう一時間ぐらいは経過、していればいいな……)

 微かに光の剣の光が揺らぐ。それは魔力の供給が僅かに遅れだした兆候であった。

 襲いくるスキアは一度に三、四体。人間相手の門とはいえ、その大きさはとても広く、本来は一人で守れるような幅ではない。

 スキアとの戦闘が始まり一時間ほど経過したところで、ヒヅキの魔力は枯渇寸前となる。

(飛ばし過ぎたか? 予想以上に黒き太陽の持続時間があるな……しょうがない、背に腹は代えられない)

 ヒヅキは謎の声に貰っていた予備の魔力を全て使って魔力を補充する。それでも万全時の半分を少し超える程度の魔力しか回復できない。

(……機を逸したな。俺は何がしたいんだ?)

 スキアとの戦闘を継続しながら、ヒヅキは逃げる時機を逸したことに内心で呆れかえる。今から逃げるにしても、雪崩れ込んでくるスキアを交わして距離を取るには魔力量が心許ない。目の前には未だに視界を埋め尽くすスキアが(ひし)めきあっているのだから。

(くだらない終わり方だが、誰も救えなかった俺らしいか?)

 そう思うとヒヅキの顔に自然と笑みが浮かんでくる。残りの魔力は少なく、今のままではあと十分ちょっとで力尽きることだろう。残念な事に、そんな状態になっても、ヒヅキには心残りらしい心残りが一切浮かんではこなかった。

『死に際に接して何も思うところが無いとは、本当に君は面白いね』

 そこに、魔砲を修得した時に聞いた声が聞こえてくる。

(え?)

 一瞬、また死んだのかとも思ったヒヅキであったが、目の前では自分が振るう光の剣で消えていくスキアの姿。それはまだ生きているという事。そして、その声が聞こえたかと思うと、一瞬で魔力も体力も何もかもが万全の状態に戻っていく。

『無理をしなければこれでギリギリ間に合うだろうよ。あの呼び餌は今少し発動するみたいだからね』

(待って!)

 消えそうな気配の声に、ヒヅキは咄嗟にそう呼び止める。

『これを凌げたならば話を聞いてあげるよ』

 それだけ言うと、謎の声は静かになった。

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