ガーデン防衛36
それはヒヅキが光の魔法について調べていた際、偶然目にした事であった。
図書館に置いてあった魔法関連のとある本に、ソヴァルシオンで何故か気になりヒヅキが購入した、木の板で作られた人の形を模したお守りによく似た物について書かれていた。
その書物によると、どうやらそのお守りは身代わり人形と呼ばれた古来の使い捨てのお守りらしく、今で言う所の魔法道具の様であった。
効果はそのお守りに込められた力により差があり、弱くて所持していた人物の代わりに傷を負うというもの。そして、込められた力が最も強い場合、所持者の代わりに死を請け負うというとんでもない代物であった。
これは全て一度きりでお守りが壊れてしまうところから、使い捨てのお守りという扱いらしい。因みに、外見はどれも似ている為に、見た目だけで効果の判別は極めて困難だとか。
さらにその書物を読み解くと、その身代わり人形は言い伝えの中でしか残っておらず、一般的にはほとんど知られていない伝説の魔法道具扱いとなっていた。
ヒヅキはそのお守りを自分なりに調べてみたが、ほとんど情報が残っていなかった為に、結局あまり分からなかった。ただ、それが本物である事だけはお守りから感じる魔力で理解出来た。
しかし、外から感じる魔力はソヴァルシオンで冒険者が見向きもしなかったぐらいに微量であるので、どの程度の代物かまではやはり分からなかったが。
その後、ヒヅキは今まで自分の身に降りかかった災難を振り返り、本当の意味での死以外は大抵経験している事に思い至り、所持しているお守りが最上級のお守りとされている死の代行であると予測していた。
そんなお守りをエインに渡したという事に、ヒヅキの感じた所謂虫の知らせというやつの強さが窺えた。
ヒヅキは何事も起きない事を祈りつつ、人の減ったガーデンの街中を歩き、プリスの屋敷からシロッカス邸までの道のりを進む。
昼頃にシロッカス邸に帰ってきたヒヅキを、シロッカスとアイリスが安堵共に迎え入れてくれた。
そのまま昼食を摂ったヒヅキは、アイリスにどうしてもとせがまれ、アイリスの部屋でスキアとの戦闘について語っていた。
そうして夕方前まで語っていたところに、ヒヅキへとエインからの使者が訪れた為に話は中断された。
別室でヒヅキが使者と会うと、約束通りにエインから黒き太陽が二つ渡される。
それを丁寧な手つきで受け取ると、ヒヅキは使者から王宮についての話を聞かされた。
使者からの話によると、現在王宮は貴族や王族のほとんどはガーデンを離れているという。行き先は、領地が無事な者は自分の領地に。当てがないものは第二の首都であり、冒険者が守っているソヴァルシオンに居を移したらしかった。
問題はその後の話である。
ヒヅキがスキアを襲撃した事で一時的に僅かな余裕が生まれたからなのか、第二王子が何やら悪巧みを企てているとか。
それと共に、ソヴァルシオンへと退く為に待機させている部隊の様子が慌ただしくなってきたらしい。エインの所見では、もしかしたら王と第一王子を強引に連れ去ろうとしているのではないか、というモノであった。
それを聞いたヒヅキは、それを妄想だと笑えない事に笑ってしまった。苦笑の類いではあったが。
その後幾つかの話をすると、使者は帰っていった。どうやらエインは一応第二王子の暴走を止めようと画策しているらしい。ただ、王妃が後ろ盾に居る為に上手くは行っていないようであった。