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ガーデン防衛35

 お守りを仕舞ったエインは、一息ついて自分を殺した王妃と第二王子について考える。もし、自分が王と第一王子を攫い、残った有力な王位継承者を派手に殺した後にどうするかを。

「このままだと直ぐに事が露見するだけで利がまるで無い。ならばどうするかだが…………チッ、プリス! 今すぐ確認して――」

 そこで何かに思い至ったエインがプリスに命令する前に、遠くで大きな物音が聞こえてくる。

「王妃様――いや、あの賊め! ふざけた真似をしてくれる!!」

 その大きな物音に拳を机に強く叩きつけたエインは、そう怒声を上げて立ち上げった。

「どちらに!?」

 何処かへ向かおうとするエインに、慌ててカレジが問い掛ける。

「南門の様子が確認出来るテラスだ!」

 エインはそう告げると、ドレスの裾を掴んで急いで部屋を出ていく。その後をプリスとカレジが追う。

「やはりか!!」

 見晴らしのいい南向きのテラスに勢いよく飛び出たエインは、そこから確認出来た南門の様子に、口惜しげに言葉を吐く。

 南門は夜の闇の中でも判るほどに兵士が集い、火が焚かれて赤々と光っている。

「一体何があったのでしょうか?」

 兵士のがなり声が風に乗って耳に届く中、カレジは何かを探して必死にガーデンの街中に目を走らせているエインに顔を向けて問い掛けた。

「王妃と第二王子がスキアを呼び寄せたんだよ。スキアにガーデンを滅ぼさせればガーデンを脱した口実になるだけではなく、証拠隠滅も簡単に出来るだろうからな。何せ現在は調査する余裕も無ければ、調査させても指揮を執るべき位置に自分が就いているのだからな」

 そこでエインは何かを見つけ、小さく舌打ちをした。

「やはり黒き太陽を使いやがったか!」

 エインの視線の先に目をやったカレジは、夜の闇よりなお暗い煙を壁の内側で確認する。それをカレジは昔に数回目にした事があった。

「そこまで堕ちたのですか……」

 愕然とするカレジ。そこに一人の将軍が駆け込んできた。

「こちらにおいででしたか! 王の所在をご存じありませんでしょうか!?」

 問い掛けた将軍に、エインとカレジは微妙な表情を僅かに浮かべる。

「現在私以外の王族は床に臥せっている故に、報告は私が責任をもって受ける」

「は? ハッ!」

 一瞬何を言われたのか理解出来なかった将軍であったが、余程急用だったらしく、何も問わずに跪いて報告を始める。

「南門に大量のスキア襲来! それと、街中で黒き太陽の煙を確認致しました!」

「それで現状はどうなっている? 最初の大きな音がしたきりで、その後には音が聞こえないが、門は無事なのか?」

「第一の門は破られましたが、現在その場に押しとどめております!」

 その報告に、エインは眉を寄せる。

「第二の門が無事どころか足止めしている? 冒険者の居ない中どうやってスキアを食い止めている?」

 黒き太陽は居住区画、つまりは三重の防壁の最も内側である第三の門から僅かに離れた場所で使われていた。

 当然スキア達はそこを目指して殺到しているはずだが、現状の戦力を考慮して被害が第一の門だけだというのはあまりに不自然であった。それは例え冒険者が大勢居ても、大量のスキア相手にそこまで軽微な被害で済むはずがなかった。

「それは……」

 言い淀む将軍に、エインが正直に報告するように促す。

「……光る剣を持った正体不明の人物が壊された第一の門付近に立ち塞がり、ただ一人で殺到する全てのスキアを食い止めていまして」

 その報告に、エインとプリスはその人物が誰かなのは直ぐに思い至る。いや、そもそも大量のスキアと渡り合える人物など二人の記憶の中には他に存在しなかった。

 しかし、その人物に心当たりのないカレジが将軍に問い掛ける。

「何者だそれは? 冒険者か?」

「不明です。第一の門が破られた直後に現れ、あり得ない事にただ一人で死守しております」

「そんな事が可能なのか? そしてお前たちは何をしている、見ているだけか?」

「信じられませんが、可能なようです。……我らもスキアに応戦していますが、我らではスキアに攻撃を当てる事さえ困難なうえに、例え当たったとしましても我らの武器ではスキアには効果が無く」

「解った。報告ご苦労。そして、その光る剣の人物は味方だ、くれぐれも攻撃せぬように」

「ハッ! エイン様の手の者でしたか。畏まりました」

 報告を終えた将軍は、それで急ぎ戻っていった。

「お知り合いでしたか。いやはや、エイン様の交友関係は広いですな。冒険者が去ってしまってもまだそれだけの人材を確保しているとは」

「……そうだな。善意で、手を貸してもらっている」

 将軍やカレジの物言いにエインは内心で苛立ちながらも、それを表に出さないように抑える。

「このまま南門に向かいたいところだが、南門への援軍は力を貸してくれている冒険者達に任せて、まずは王不在の今後について残っている者達で話し合うとしよう」

「はっ! ですが、その前にお召し物を替えた方がよろしいかと」

 カレジのその指摘で自分の現状を思い出したエインは、皮肉めいた笑みを面に浮かべる。

「将軍と会ったのが夜の闇の中で助かったな」

 そう言うと、エインは自室ではなく会議室へと足を向ける。

「どちらへ!!」

 それに慌てて声を掛けるカレジ。

「会議室だよ。このままの方があの賊どもの凶行についての説得力が増すであろう? 解ったらさっさと残っている側近どもを招集せよ」

 エインはそう言いながらカレジに血だらけの己が身体を見せつけるように両手を広げた。その顔には薄い笑みが張り付いていた。

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