ソヴァルシオンへの誘い
「なんでしょうか?」
冒険者たちの横を通り抜けようと歩いていたヒヅキだったが、突然横合いから掛けられた呼び止める声に足を止めると、声の主の方へと身体ごと向き直った。
「もしかして君はずっとこの森に居なかったかい?特にこの周辺に」
桃茶色の髪の女性の意図の掴めないその問いに、ヒヅキは僅かに眉をひそめるも、女性の真剣な表情を見て、何も問わずに答えることにした。
「いえ、少し前に来たばかりですよ」
とはいえ、正直に答えると厄介事になりそうだと判断したヒヅキは、正直に答える代わりにそうとだけ返した。
ヒヅキのその答えに、桃茶色の女性は少し考えるような素振りを見せると、
「それは本当かい?……実はここに来る前に大量の小鬼に襲われたんだ。まぁそれは倒せたんだが、その際、小鬼を混乱させて我々を助けてくれた人物が居てね、その人物と思われる人影を目撃したのだが、なんとそれが君にそっくりだったんだ。何ならカタグラの記録を見るかい?ちゃんと録れているはずだからさ」
「………」
ヒヅキは親しみを感じさせる微笑を顔面に張りつけたまま一瞬黙り込むと、
「そうですか。しかし、確かカタグラに記録されている映像は、ソヴァルシオンにある冒険者組合の本部でなければ再生が困難だと聞いたことがありますけど………」
ヒヅキのその指摘に、桃茶色の髪の女性は多少の驚きを表情に浮かべる。
「そんなことをよく知っているな、だがそれなら話が早い。どうだろう、私たちと一緒にソヴァルシオンに行ってみないか?カタグラの映像もだけど、今回小鬼を討伐出来たのは君のおかげな気がするんだ。もしそうなら、君には報酬を受け取る権利があるはずだからね」
にこやかにそう提案する女性に、ヒヅキは考えるような素振りをみせる。しかしそれはポーズで、実際は答えなど端から決まっていた。
しばらく悩んでいるような間を置いたヒヅキは、提案してきた桃茶色の女性に正対するとはっきりとした口調でこう告げた。
「分かりました、ソヴァルシオンへ同行させていただきます」
ヒヅキのその答えに、女性はパッと表情を明るくするも、
「ただし、同行するのは一度家に戻り、家族の許可を貰ってからですけど」
ヒヅキは直ぐにソヴァルシオンに同行する前提を告げる。
それを聞いた女性は納得したように頷くと、
「それでは私たちは一度チーカイの町に戻るとするよ。返事は後日私たちの泊まっている宿屋に来てもらうか、私たちがそちらに伺うというかたちにしたいと思うのだけど……」
女性の窺うような視線に、ヒヅキは頷きを返す。
「では、後日チーカイの宿屋に伺わせてもらいます」
その後、ヒヅキは女性たちが宿泊している宿屋の場所と部屋を聞いて別れると、カイルの村に戻ったのだった。