ガーデン防衛32
カーディニア王国で宰相に就いているカレジがそれを発見したのは、全くの偶然であった。
僅かに空いた仕事の合間に何か口に入れようとカレジが廊下に出た時、窓の外で馬車に乗る王妃と第二王子の姿があった。周囲には武装した王妃子飼いの部隊が固めているという妙に物々しい警備での出立だった。
カレジはそれに不審な目を向ける。
そもそも王妃と第二王子は現在、カーディニア王・第一王子・第三王女を交えた五人で会食をしているはずであった。家族水入らずがいいという王の要望で、使用人も必要最低限しか用意されてはいなかった。
カレジは嫌な予感を抱き、厨房へと向けていた足を王達が会食しているはずの部屋へと向ける。もし勘違いであったならば、適当な理由を王に伝えればいい。幸いと言っていいのか、王に相談するべき案件については事欠かなかった。
カレジは不自然にならないギリギリの速度で急いで部屋へと向かう。その道中。
「君はエイン様の御付きの……プリス殿、でしたか?」
横からの道と合流する地点で、カレジは自分と同じように足早に移動していた侍女と出会う。
「覚えて頂けていたとは、光栄で御座います。宰相さま」
プリスは一度足を止めると、恭しく礼をする。
「それで、宰相さまは急いでどうかされたのですか?」
プリスの問いに、カレジはどうしたものかと僅かな間逡巡するも。
「君の仕えるエイン様が気になってな」
「そうで御座いましたか。では、目的地は同じ様ですので、急ぎ向かいましょう」
余程急いでいるのだろう。プリスはそう言うと、カレジを置いて先へと進む。
「君は何故エイン様の元へ?」
速度を上げて横に並んだカレジは、プリスにそう問うた。それにプリスはカレジを一瞥もせずに答える。
「エイン様に薬が盛られた可能性があります」
「なっ! それは事実か!?」
「配膳を担当した者からの情報です。食器に薬を塗ったと……それも王と第一王子の分にも」
「!!」
「心配なさらずとも毒では御座いません。ただの睡眠薬の様なモノです。エイン様には麻痺毒が盛られたようで御座いますが」
「王妃様と第二王子殿下か!?」
「おそらくは。宰相さまは何故急に?」
「たまたまその王妃様と第二王子殿下が馬車に乗って出て行かれるのを見掛けてな」
「なるほど」
それから二人は黙々と廊下を進む。既に早歩きなどではなく走っていたが、二人はそれに気づいていない。そして。
「失礼致します!」
部屋に到着したカレジは、ノックもせずに急いで室内に入る。
「うっ!」
一歩入り、カレジは思わず口元を押さえる。室内には鉄の不快な臭いが充満していた。
そしてカレジの視界に、短刀を背中から生やし、机に突っ伏しているエインの亡骸が映った。