ガーデン防衛30
朝になり、外が明るくなった頃。エインは目を覚ますと、いつもと違う感触に内心で首を傾げつつ、昨夜の事を思い出す。
「あ」
思い出したエインは、顔を薄っすら朱に染めながらも顔を上げる。
「お、おはよう」
「おはようございます」
「御早う御座います」
エインの起床の挨拶に、ヒヅキとプリスが挨拶を返す。プリスは既にベッドの傍に立っていた。
ヒヅキはエインの抱き枕の任から解かれると、ゆっくりと上体を起こす。
「少し寝坊してしまったかな」
外の明かりがいつもより明るい気がしたエインは、二人にそう問い掛ける。
「いえ、丁度良い時間かと」
それに答えたプリスに、エインは頷きベッドから下りる。
「それでは私はこれから王宮に戻るが、黒き太陽はシロッカス殿の屋敷に送ればいいのかな?」
「はい、お願いします」
ヒヅキは感謝を込めて頭を下げた。
「では、夕暮れまでには届けさせよう」
そう告げると、エインは部屋を出ようと背を向ける。そこに、ヒヅキが声を掛けた。
「殿下、少々お待ちください」
その声に、エインは不満げな表情でヒヅキの方に振り向いた。
「何だ?」
「これをお受け取り下さい」
そんなエインに、ヒヅキは御守り代わりに所持していた、人の形をした小さな木の板を差し出す。
「これは?」
「お守りです。どうぞお持ちください」
エインの手にお守りを渡したヒヅキは、その際エインの耳元で囁く。
「呼び名は二人きっりの時にでも、エイン」
「――――」
ヒヅキ的には外聞もあるだろうからという配慮での言葉であったが、それにエインはやや顔を赤らめ俯いてしまった。
「それでは、お気をつけて」
お守りを渡したヒヅキは、そう言って頭を下げた。
「う、うむ。有難く貰っておこう」
エインは少しぎこちなく頷くと、お守りを大事そうに手に持ち部屋を出ていく。
「それでは、私もエイン様と行きますので、あとは御願い致します」
エインに続いてプリスが部屋を出る際、そう言って屋敷の鍵をヒヅキに託した。
「あ、それは予備の鍵ですので、そのままヒヅキ様が御持ち下さい」
扉を閉める前にそう言い残して、プリスは部屋を出ていった。
「…………」
ヒヅキはその手元の鍵に目を落とすと、自分もシロッカス邸に戻ろうと屋敷を後にする事にした。
戸締りなどはプリスが済ませているだろうと考えたヒヅキは黒き太陽を持ち、忘れ物がないのを確かめた後、預かった鍵で屋敷の扉に鍵を掛けてから敷地の外に出る。
(何事もなければいいが)
ヒヅキは何となく感じた胸騒ぎに、そう思いながらシロッカス邸を目指す。
そもそもエインにお守りを渡したのは、黒き太陽に対する礼という意味もあったが、渡しておいた方がいいような気がしたからであった。あのお守りは、少々特殊なお守りであったから。