ガーデン防衛27
「ならばこの黒き太陽は君にあげよう。他にも私はあと二本持っているから、明日にでも渡そうではないか」
そう言うと、エインは手に持つ黒き太陽をヒヅキに差し出す。
「よろしいので?」
貴重そうな品に、ヒヅキは少し戸惑うように問い掛ける。
「興味があるのだろう?」
「ええ、ですが……」
「遠慮は要らん。それでも理由が必要ならいくらでも用意してやろう。幸いというか、君は私からの褒賞をろくに受け取っていないからな」
「いえ、通行証を頂きましたから……」
「それでも足りぬのならば、今回のスキア襲撃の報酬でも、これからのガーデン防衛の報酬の先払いでも、スキア討伐の必要経費としてでもいい、これでもまだ必要というのであれば、まだまだ用意するが?」
「……いえ、畏まりました」
不的な笑みを浮かべるエインに、ヒヅキは諦めて黒き太陽を丁寧に受け取る。
「まあまだ何か思う所があるのならば、それを使って戦果でも挙げてくれ」
そう言うと、エインは笑みを悪戯っぽいモノに変えた。
「はい」
「うむ、素直でよろしい。残りは王宮に在るから、明日にでも持ってくるさ」
そう告げたエインは、窓の外に目を向けてわざとらしく声を上げた。
「もうこんな時間だ。今日はここに泊まっていくがいい」
「いえ、そういう訳には」
「構わんさ。な? プリス」
「はい。シロッカス殿にも帰りは明日になると伝えましたので」
「え?」
「そういう事だ。さ、一緒に寝ようではないか!」
エインはヒヅキの手を両手で抱くようにしてがっちりと捕まえる。
「いえ、それでしたらせめて私は別の部屋で」
泊まる事が決定事項の様になっている為に、ヒヅキはせめてもの抵抗とエインの提案を断る。
「別の部屋と言っても、ここ以外に客間は無いしな」
「ここは客間なので?」
「ああ、ここはプリスの家だからな」
「そうだったんですか」
それにしては見事に私物化している気がするのですが、という言葉が喉まで出かかったものの、ヒヅキがそれを寸前で飲み込む。
「だから他に客間は無い! それとも、ここが嫌ならプリスと共に寝るか?」
「私はそれでも構いませんが」
エインの言葉を、侍女は何の問題も無いとすぐさま受け入れる。
「いえ、それではソファーにでも――」
「君は客人だ。客人をソファーや床には寝かせられないぞ? そんな事をするぐらいなら私がソファーで寝る」
「…………」
「いえ、それは私が困りますので、その場合は私が床で寝ます」
「…………」
ヒヅキは頭痛を覚え、頭を軽く押さえる。
「だから諦めて一緒に寝ろ! 何、心配せんでも添い寝するだけで何もせんよ」
世間的にそれを言うのは男の方ではないのかとヒヅキは思うも、それをわざわざ口にはしない。それも質の悪い男の嘘の類いな気がしたから。
「…………分かりましたよ」
ヒヅキは正直面倒くさくなってきていた。既に時間も随分と遅い為に、そう時を待たずに朝になるというのも折れた要因でもあった。
「よし! それではもう寝るか! プリス、お前も一緒に寝るぞ!」
「畏まりました」
「は!?」
それでも、その追加の言葉にヒヅキは信じられないという目をエインに向けた。
「両手に花は男の夢だろう?」
喜べとばかりにいい笑顔を浮かべたエインに、ヒヅキは諦めて手を引かれるままにベッドに連れていかれる。
そのままヒヅキを中央にして右手にエインが寝ると、明かりを消した侍女がヒヅキの左手に横になり、三人は仲良く並んで眠りに就いた。