ガーデン防衛26
「あれはスキアの習性を利用しただけだな」
「スキアの習性?」
ヒヅキはそれに眉根を寄せる。
「習性というか、何度か戦っていて分かった事なんだが、スキアは単純なんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。例えば砦を攻撃していた時に城壁の一ヵ所が崩れたとしよう。その時にその穴周辺のスキアは他の城壁を攻撃するのを放棄し、その穴目掛けて殺到するのだよ」
「そうなんですか……?」
「特に目標に集中している時にはそれを叶えるために他が疎かになるようだ」
「目標に集中ですか?」
「そう。先程の城壁の話だと、砦を落とす事に集中するあまりに砦内に侵入する事を優先して、穴が開くと城壁を攻撃するよりも砦内に侵入する事を優先するんだ。結果、最も簡単な開いた穴から入るという行動を起こすのだよ」
「なるほど」
素直に頷くヒヅキに、エインは機嫌よく話を続ける。
「そして、実はスキアにそれを促す道具があるのだよ」
「道具?」
「プリス、あれを取ってくれるか?」
「畏まりました」
エインの要請に頷いた侍女は立ち上がると、ベッド近くの棚へと移動して何かを取り出した。
「どうぞ」
「うむ。ありがとう」
その何かを侍女から受け取ったエインは、それをヒヅキに見せる。
「これがその道具だ。我らは黒き太陽と呼んでいる」
エインが持つそれは10センチ程の長さの細く透明な円柱で、中には2センチ程の大きさをした球体状の黒い靄のような、揺らぐ何かがあった。
「それはどういう効果が?」
「スキアを引き寄せる」
「え?」
エインが発した一言に、ヒヅキは驚いたような声を漏らす。
「この外側の透明な部分を砕くとな、中のこの黒いやつがその場で煙の様に燃え出すのだ。そうすると、それを目指して周囲のスキアが殺到する」
「どういう原理で?」
「……不明だ。そもそもこれは近くにある遺跡からの出土品でな。数があったので調べたらしいが、結局これが何なのかは分からなかったようだ」
エインは手元の黒き太陽を光に透かすように持ち上げる。
「その研究で判った事はそこまで多くはない。まず、この黒き太陽には我らは干渉できない。その代わり、この黒き太陽も我らに干渉しない」
「それはどういう……?」
「先程これを壊せばこの黒いのがその場で燃えるといったが、その火にこちらからは触れる事は出来ないし、燃える物を近くに持ってこようと燃やせない。熱だって感じないのだ」
「幻ですか?」
「そう解するのが正しいのだろうが、こうしてここにある上に、事実としてこれにはスキアを引き寄せる力がある」
「どれぐらいの範囲のスキアが引き寄せられるので?」
「正確な数字は不明だが、今ここで使えばガーデン周辺に集まっているスキアは残らず釣れるかもしれないな」
「持続時間は?」
「モノによって幅があるが、大体1、2時間だ。長くても3時間ぐらいか」
「短いと?」
「30分も保たん」
「なるほど……」
ヒヅキは思案するように沈黙する。人為的にスキアをある程度任意の場所に集められるというのであれば、話は変わってくる。
「……興味があるようだな?」
そんなヒヅキの様子に、エインは意味深な笑みを浮かべる。そんなエインにヒヅキは目だけを向けると、言葉だけで頷いた。
「ええ、もの凄く」