ガーデン防衛25
重い空気が漂う中、ヒヅキは纏めるように言葉を続ける。
「そういう訳ですので、私が時間を稼いでる間に殿下にはどうにかして頂きたいのですが」
そのヒヅキの言葉に、エインは困ったように苦笑する。
「それが出来ればいいんだがな」
「何か問題でも?」
ヒヅキのその問いに、エインは言いにくそうに口を開く。
「未だに王宮内の歩調がまるで揃わない。どうやら駄目な方向に平和ボケしているようだ。こんな国家存亡の危機的状況でも、王位を狙った駆け引きで足を引っ張るなど、滑稽でしかないというのに」
「まだ逃げてないので?」
「逃げようとしている者はそれなりに居るのだが、何人かは未だに機を窺ってぐずぐずしているようでな。それに……君にだから話すが、王や第一王子を連れていこうとしている連中も居てな」
「それはまた、愉快な者達が居た者ですね」
「ああ、本当にな」
呆れたヒヅキの言葉に、エインは疲れたように同意する。
「ですが、そうなると……」
ヒヅキは少し考えるように口を閉じる。僅かな間そうしていると、疲れたように息を吐いた。
「……もう一度訊きますが、逃げる訳にはいかないのですよね」
「ああ、それだけは出来ない。だが、君との約束は守ろう」
力強い瞳でジッとヒヅキを見詰めながら、エインはそう断言する。
「南はそんなに居ないとしましても、三面ですか……」
「どうにか出来るのか?」
「まぁ、私が死んでもいいのであればなんと出来るでしょうが」
「それは困る」
「困る、ですか」
「ああ、君には私と共に生きてもらわなければならないからな」
「はぁ」
ヒヅキは気の抜けたような声を出す。おそらく、このままこの件が片付いたところで、ヒヅキとエインは別々の道を歩む事になるだろうから。
「そう言う事ですので、つまりは手が無いという事です」
ヒヅキに出来る事はスキアを吹き飛ばすか斬るぐらいだ。数がどれだけ多くとも、一ヵ所に集めさえすれば最大火力で吹き飛ばすことが出来る。特に今は予備魔力があるので、現在ガーデン周辺に居るスキア程度であれば確実に消し去れた。
しかし、それは叶わない。三面では北側の数が多すぎて、他二方面を消し飛ばすのに力を使った後では、文字通り全てを注がなければ消し去れない。それに、一ヵ所にスキアを集める方法がなかった。
「ならばまぁ、後はのんびり待ちますか」
ヒヅキはそう結論付けることしかできなかったのだが、そこで一つ思い出してエインに問い掛けた。
「そういえば、ケスエン砦ではどうやってスキアを砦に集中させたので?」
「ん?」
「最後の方は兵士や冒険者ではなく、砦破壊に集中していたようなので。それに、一ヵ所の穴から侵入したがっていたようにも見受けられましたし」
「…………ああ」
そのヒヅキの問いに、エインはヒヅキが何について訊きたいのか思い至り、何でもない事の様に口を開いた。