ガーデン防衛24
ヒヅキは誰も居ない食堂で待っていながら、自分の服装を確認する。
用意されていた服は余計な装飾の無い白っぽい服で、質のいい糸が使われていて肌触りが良かった。
長袖長ズボンと露出が少ないのは外が寒いからだろうが、今のヒヅキには傷が隠せるのでそちらの方が都合が良かった。顔にはあまり傷が無い為に、腕と脚が隠れた服を着ていると、大して怪我をしていないように見えた。
そうして時を過ごしていると食堂の扉が優しく叩かれ、侍女が中に入ってくる。
「エイン様の準備が整いましたので、御案内致します」
席を立ったヒヅキを誘導しながら、侍女は廊下に出る。
そのまま侍女の案内で連れてこられたのは、いつもの応接室ではなく、別の部屋であった。
侍女が扉を叩き来訪を告げると、わざわざエインが扉を開いてヒヅキを中に入れる。
「プリスも中に入りなさい」
室内には入ろうとせずに背を向けようとした侍女に、エインはそう言って手招きする。
「よろしいのですか?」
「構わないさ。今日は私的なモノだしな」
そう言って軽く笑うエインに、侍女は承諾したような礼を見せると、室内に入る。
「さて、二人共適当に座るといい」
エインに呼ばれてヒヅキ達が入った部屋には、二人掛けのソファーの二つが直角に配されている以外には、小さな机とそれを挟むように椅子が二脚、本で隙間なく埋められた本棚、後は大きなベッドが1つ置かれていた。そこはどう見ても個人的な部屋、それも立派なベッドが置かれているので寝室であろう。
ヒヅキは戸惑いながらも、ソファーの一つに腰掛ける。侍女も少し戸惑いをみせながらも、空いているもう一つのソファーに腰掛けた。
それを見届けたエインは、ベッドの縁に腰を下ろした。
「ハハ、そう固くならずともいいよ。もっと気楽に行こうじゃないか」
エインは気さくに笑いながらそう言うとベッドから立ち上がり、ヒヅキの隣に少し強引に腰掛ける。
「ふむ。……怪我は酷くないようだな。しかし、数が多いな」
エインはヒヅキの顔を確認すると、徐に手を取り、慣れた手つきで袖を捲って傷を確認する。
「脚の方もか?」
そう言いながら、エインは脚の方も長い丈を捲って傷を確認する。
「……すまないな」
傷を確認したエインは、ヒヅキの目を見ながらそう言って深く頭を下げた。
「何がでしょうか? この傷なら私が勝手に戦い勝手に負っただけですよ? 殿下に頭を下げていただくような事は何もありません」
それにヒヅキは慌てる事もなく、突然おかしなことを言うものだとでもいうように、不思議そうな表情を浮かべる。
「はは……そうか、それでも不甲斐ない私からの謝罪と、感謝を受け取って欲しい」
力なく笑ったエインは項垂れるように頭を下げる。
「そういう事でしたら今ではなく、全てが終わってからでいいですか?」
「全て?」
「ええ。ガーデンがどうなるかは分かりませんが、少なくとも、まだスキアへの攻撃は始まったばかりですから」
「それはそうだが……」
エインは考えるように顎に手を当てると、ちらりと侍女の方に目を向ける。
「ヒヅキ様がそうおっしゃるのでしたら、何か御考えがあるのでは?」
「どうなのだ?」
「そうですね。正直何も考えていませんね」
「そうなのか?」
「はい。現在行っている襲撃は、与えた損害よりもスキア側の補充の方が早いので、遅滞目的にしかなっていません。それもガーデン側が動けないので単なる時間稼ぎにしかなっていませんが。後はこの出来た時間で冒険者と和解して援軍として来てもらうか、ソヴァルシオンにでも退いてくれればいいのですが、それは叶わないのでしょう?」
「…………」
「ですから現状、無駄に襲撃を長引かせているにすぎません。まぁ全力を出せば北側に集まってる大量のスキアぐらいは掃討できますが、それだと私もただでは済みませんし」
実際はスキアを殲滅する腹案をヒヅキは持っていたのだが、それを安全に実行に移すには既に時を逃がしており、もうガーデンを犠牲にしなければスキアの殲滅は不可能な状況であった。それ故に、ヒヅキはその案をこの場で語ろうとはしなかった。