ガーデン防衛21
休憩を終えたヒヅキは、すっかり明るくなった頃に南側へと大きく迂回するように移動を開始した。
その途中に遭遇した数体のスキアを倒しはしたが、概ね何事も無く南側へと回る事に成功する。
(やはり南側はスキアの数が少ないな)
近くの茂みに身を隠しながらスキアの気配を探ったヒヅキは、南側のスキアの数が調べた時からそこまで増えていないのを確認すると、日中は南側のスキアの殲滅に当てる事にする。
(昨夜はギリギリ凌げたが、今回は少し楽ができそうだ)
だからといって油断はできないのだが、ヒヅキは口元に微かな笑みを浮かべる。
(やられっぱなしは性に合わないんでね)
素早く移動を開始したヒヅキは、まずは手近なスキアの集団に襲い掛かった。
◆
日が暮れ、世界が完全に闇に包まれた頃。ヒヅキは南側の三重の城壁を密かに乗り越えると、居住区画に降り立つ。
「お疲れ様です」
そんな城壁を越えたばかりのヒヅキに、横から労いの言葉が掛けられた。
「……何故貴女がここに?」
その声の主へと顔を向けたヒヅキは、警戒しながら訝しげな声を掛ける。
「そろそろこちらに帰ってくる頃合いかと思いまして」
その返答を聞きながら、ヒヅキは目の前の女性へと観察するような目を向けた。
その女性は侍女が着ている服に似た、装飾がほとんど見られない簡素な作りながらも、丈夫で動きやすそうな服に身を包んでいた。しかし、その服には上質な糸が使われているように見えた。
そのまま視線を下げて足元に目を向ければ、高さの低い靴を履いている。ただ、汚れはほとんどついていない。
視線を上に向けて腕に目を向ける。
袖の長い服から露出している部分は手首の少し上から先しかないものの、その手は甲の方は綺麗だった。しかし、僅かに見えた手のひらの方は、家事というよりも武器の扱いに慣れてそうな、傷のついた硬そうな手のように見えた。
顔は人形の様に整っているも、表情が乏しく、よく観察しなければ感情が読めそうにない。髪の色は黒に近い艶やかな藍色で、胸元辺りまで伸びている。
ヒヅキにはその女性が侍女というより暗殺者の様に見えたものの、その女性がエインの屋敷に居た侍女であったが為に、いきなり敵意を向けるような事はしなかった。
「それは察しの良い事で。それで、こんな所までわざわざお出迎え頂いて、私に何か御用でしょうか?」
にこやかに問い掛けるヒヅキに、その女性は一つしっかりと頷く。
「エイン様がお呼びです」
「こんな時間に? せめて着替えさせてほしいのですが」
ヒヅキは少し手を広げ自分の身体に目を落とすと、ボロボロの血だらけである事を女性に主張する。
「大丈夫で御座います。屋敷の方に御召し物も御風呂も御食事も全て御用意しておりますので。それと、シロッカス殿にはこちらから御連絡致します」
女性は、ジッとヒヅキをその月の無い夜空のような瞳に映し続ける。
「そうですか……では、お邪魔させて頂きましょう」
その瞳をしっかりと見つめ返しながら、ヒヅキはそう言って目を細めて笑みを浮かべた。