ガーデン防衛19
スキアの群れを抜けて追撃を振り切り、しつこく追ってきていたスキアを殲滅したヒヅキは、近くに在った林の中へと入り、木に背を預けて腰を下ろした。
「疲れた」
ヒヅキは息を吐くと、空を見上げる。そこには大分色の薄くなった夜空が生い茂る葉に切り取られて浮かんでいる。僅かだが弱い星の瞬きも確認出来た。
(……何をやってるんだろうな、俺は)
視線を夜空から自分の身体に向けて、ヒヅキはどこか自嘲するような表情を浮かべる。
そこには傷だらけの自分の身体があった。
攻撃は直撃していない為に傷自体は全て浅いものではあるが、服はズタズタに切り裂かれ、そこから血が滲み、服に赤黒い染みをそこかしこに作っていた。
大量の染みで出来たその服はまだら模様どころではなく、事情を知らぬ者が見れば大けがをしたかのように見えたかもしれない。
「ハハ。何だこの無様な姿は」
そんな自分の姿に、ヒヅキは呆れたように小さく笑いを零す。
「何で俺はこんな傷だらけになってまでこんな事をしてるんだろうな」
そう口にしながらも、ヒヅキはその答えを頭に浮かべて、力なく細く長い息を吐いた。
「確かにこれを続けていれば勝つ可能性が生まれるかもしれないが、それはどれだけ僅かな可能性だ? それにこれだけではただの先延ばしだ」
先程ヒヅキは大量のスキアを消し去ったものの、ヒヅキが消耗した魔力を回復するよりも、スキアが増えている速度の方が早い。それはつまり、時間稼ぎにしかならないという事。
それに、もしもヒヅキが消耗している状態でスキアが攻めてくれば、冒険者のほとんど居ないガーデンは直ぐに落ちる事だろう。つまりこれは僅かな勝利の可能性である以上に、とても危険な賭けであった。
「魔力が足りない。殿下から魔法武器でも借りてくればよかったか?」
魔法武器はスキアに有効な数少ない武器ではあるが、貴重で高価な武器でもあった。それでもヒヅキが使う光の剣のような圧倒的な威力はなく、またスキア相手では耐久性もそこまで望めるものではなかった。
「やはり冒険者不在はキツイな。このままでは俺の方が先に死にそうだ」
圧倒的に人手不足ではあるが、ヒヅキは死ぬつもりはなかった。今は僅かな勝機に賭けてはいるものの、本当に危なくなったら逃げるつもりでいた。その際、ヒヅキは可能ならばシロッカスやアイリス、エインを連れて逃げれればぐらいは考えているが、無理だと判断したらそれらを躊躇なく切り捨てる事だろう。
「戦力不足、人手不足、スキアの補充速度が予想以上に早い。これに加えて王宮側の行動は遅く、足を引っ張るばかり。これでもまだ僅かに勝てる可能性があると、俺は本当にそれを信じているのか……確かにスキアを殲滅する最終手段が無い訳ではないが、俺は何を拘っているのかね。とりあえずまずは魔力を回復して、それからついでに南側の少数のスキアに喧嘩を売ってから帰るとするか。日暮れの方がガーデンに侵入するのも楽だろうし」
そう決めると、ヒヅキは複雑な気持ちを抱えつつも、警戒しながら夜空を眺めて身体の力を抜く。流石に敵陣近くで就寝までは出来そうにはなかった。