ガーデン防衛16
ヒヅキがガーデンの城壁を越えるのに苦労している頃、プリスの報告を受けたエインは頭痛を堪えるような格好で頭を押さえていた。
「今からスキアに単独で奇襲? 彼の言でなければその者の正気を疑ってるところだな」
「ですが、現状ただ座して待つだけでは勝機は皆無かと」
そんなエインに、プリスはそのいまいち感情の読めない表情を傾け発言する。
「それはそうだが、それこそ彼を失った場合はどうやっても挽回さえ望めなくなるぞ?」
「私はヒヅキ様の実力を存じ上げませんが、エイン様の口振りや立ち居振る舞いから察するに、相当な実力者だと感じましたが?」
「そうだ。私は彼以上に実力のある者を、それこそ冒険者の中でさえ知りはしない」
「それに、大言壮語を吐く方でも、虚言を弄する方でもないのですよね?」
「私はそう思っている」
「でしたら、大丈夫なのでは?」
「……そうだとは思うがな。だが万が一、という事もあろう」
「そこまで気にしていては何も出来ない事は、エイン様御自身が一番御存じなのでは?」
「それは、そうだが」
「では、もう動き出した以上信じて待つしかないのでは?」
「……変わったな」
「はい?」
「いや、お前に諭される日が来ようとは思いもしなかったよ。それに、ヒヅキ様だと? 彼に興味でも持ったか?」
「はい。とても面白い方だと思いました」
プリスの何でもないような肯定の言葉に、エインは思わず可笑しそうに声を上げて笑う。
「はは、まさかあの人の感情が無いとさえ言われたプリスが人に、男に興味を持つか。これはいい報せだ」
まだ微かに笑いながらも、エインはプリスに顔を向ける。
「よかったな。また一つ願いに近づいたぞ」
「これがそう、なのでしょうか?」
「さぁな? だが可能性はあるし、違っていても発展する可能性はある」
「そう、なのですか」
「ああ。よかったな」
エインはプリスに笑いかける。まるで姉妹にみせるような親愛の籠った笑みを。
「……はい」
プリスは目を瞑り、大切な何かを抱くように胸元で手を握る。それを優しい笑みを浮かべてみていたエインは、視線を窓の外に向ける。そこからはガーデンの西側の景色を見ることが出来た。
「…………」
夜の闇の中、遠くに光る以前にみた神秘的な光を目にして、エインは小さく呟く。
「……私に最後まで生きろと言ったのは君だ、君こそそんなところで死ぬのではないぞ。それは私が許さないからな」
エインは固く手を握ると、たまに遠くが明るくなる西側の光景を祈るような気持ちで見つめ続けるのであった。