ガーデン防衛15
シロッカスとアイリスと一緒に夕食を食べ終えると、ヒヅキはエインの屋敷に向かった。
ヒヅキがエインの屋敷についたのは日が暮れた後であった。
明かりの無い屋敷に、不在かと思いつつもヒヅキは屋敷の扉を叩く。
それから暫く待ち、誰も居ないかとヒヅキが踵を返そうとしたところで。
「この様な時間にどうかなされましたか? 何か御忘れ物でも?」
無音のままに扉が開かれ、背の高い侍女が顔を覗かせる。
「いえ、そうではないのですが、エイン殿下はこちらにいらっしゃいますか?」
「エイン様でしたら王宮で御座います」
「そうでしたか……」
予想していた事だとはいえ、ヒヅキはどうしようかと思案する。
「何か言伝がおありでしたら、私が御預かり致しますが?」
侍女の言葉にヒヅキは一瞬考え、この侍女になら大丈夫かと思い、伝言を残すだけ残しておこうと口を開く。
「では、エイン殿下に言伝をお願いいたします」
ヒヅキは侍女に、これから西側のスキアを襲撃するという旨をエインに伝えて欲しいと残す。
「確かに承りました。それで、これは急ぎの用件で御座いますか?」
首を傾げる侍女に、ヒヅキは「はい」 と頷いた。
「畏まりました」
ヒヅキの頷きに、侍女は了承したと頭を下げる。
「それでは、伝言をよろしくお願いいたします」
ヒヅキは侍女にそう言い残すと、屋敷を後にした。
◆
「……スキアを単独で襲撃ですか……なるほど、確かにエイン様の仰る通り面白い方だ。私も少し、興味が湧いてきました。ですが、その前に」
プリスは屋敷に鍵をして敷地の外に出ると、王宮の方へと目を向ける。
「今は早急にヒヅキ様の御言葉をエイン様の下へ届けると致しましょうか」
そう呟くと、プリスは侍女用の服であるスカートの裾を掴み、王宮へと向けて駆ける。それはおよそただの侍女に出せるような速度ではなく、速度だけであれば冒険者に匹敵するほどのものがあった。
◆
屋敷を後にしたヒヅキは、ガーデン西側の城壁へと向かう。既にこの時間は正門は閉じており、出るにしても時間が掛かるので、西側から勝手に出国するつもりであった。
「さて、見張りの様子は……」
スキアが近くまで攻めてきた事により防壁上の警備が厳しくなったが、主にそれは一番外側の城壁で、現在ヒヅキが居る内側の城壁はそれ程ではない。
ヒヅキは狙った場所への巡回や見張りなどの警備の目がない時を狙い、あっさり城壁を越える。二つ目の城壁も外側の城壁の目を気にしながら越えると、警戒の厳しい外側の城壁を隠れて観察する。
現在ヒヅキが居るのは兵舎の建ち並ぶ区画。つまりは兵士だらけの最も警戒が厳重である区画な為、城壁を観察するだけでも周囲への警戒を怠れない。
(さて、城壁の警戒の隙は小さいとはいえ、一応あるのが確認出来た。あとは上下の警備が同時に空く瞬間を見定めれば何とかなるか)
ヒヅキは防壁上から視線を下げて区画の警備に目を向ける。防壁上程ではないが、それでも厳しい警備の動きを見極める為に。