ガーデン防衛14
(緩慢だが、スキアが動いているな)
エインの要請で訪れた屋敷を後にしたヒヅキがガーデンから離れた所に居るスキアの様子を探ると、スキアがここ数日と違う動きを見せている事に気がつく。
(合流しているようだが、どこから来たスキアだ? それに、数体が南に動いているな。そろそろ攻めてくるのかね?)
ヒヅキは帰路を急ぐと、シロッカスに貸してもらっている自室に移動する。
(スキアの様子は……)
ヒヅキは周囲を気にせず集中してスキアの様子を探る。
(北側のスキアは大分増えたな。純粋に数で攻める気満々といったところか。東側も数が増えたが、こちらは動きが南よりな感じがするのは、南側に興味がある感じだからか? 西側はまだ層が薄いな。しかし、北側から流れてきているから、これも今の内か……)
ヒヅキは少し考え、攻めてくるのを待つよりも、まだスキアが集まりきらないうちにこちらから攻めてはどうだろうかと思案する。
(でも、それを誰が?)
その答えはとても簡単だった。なにせ、冒険者がほぼ居ない現状でスキアの群れに挑める人物は、ガーデンにはただ一人しか居ないのだから。
(勝率は……スキアに他の方面から増援が無いのであれば、西側なら何とかなるが……そう都合よくはいかないか。でも、広いガーデンを守りながら戦うよりは?)
周囲の全てが敵で何も考えずにスキアを倒し続けるのと、ガーデンという巨大な防衛拠点とその民や兵士を守りながら戦う。その二つの状況を想定したヒヅキは、前者の方が戦いやすいかと考える。
(つついてみれば出方も窺えるからな。戦うからには出来る事はやっておきたいし、今から行くかな?)
ヒヅキは窓の外に目をやる。そこに広がるのはもうすぐ日暮れの赤い空だった。
(時間は遅いが、スキアが攻めてくるまでの時間もない……殿下に連絡は入れておいた方がいいが、今から屋敷に向かったところで居るかは分からないうえに、緊急の用ではないから迷惑だろうな)
とはいえ、無断でガーデンを離れるのは不味いだろうと思い直したヒヅキは、屋敷に居た侍女に伝言ぐらいは残せないかと思い、屋敷に向かう事にする。
(その前に)
ヒヅキは屋敷に向かう前にシロッカスに一言残すべく、一度シロッカスの書斎へと向かう。
シロッカスは書斎で仕事をしていたようであったが、ヒヅキの来訪を快く受け入れてくれる。
「それで、どうかしたのかね?」
シロッカスの問いに、ヒヅキはこれから西側のスキアを襲撃しようかと考えている事を告げる。
「それはエイン殿下は御存じで?」
「それをこれから告げようかと思っています」
「……そうか」
深刻な表情を浮かべたシロッカスは一度目を閉じると、目を開いて問い掛ける。
「死ぬつもりではないのだね?」
「勿論です」
それにヒヅキは即答する。それを聞いたシロッカスは身体の力を抜いた。
「もうすぐ夕食が出来る。せめてそれを食べてから行きなさい」
「……はい。分かりました」
シロッカスの提案に、ヒヅキは僅かな間を空けて頷いた。