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ガーデン防衛11

「さて、まずは何から話そうか」

 ヒヅキがソファーに腰掛けたのを確認すると、エインは用意されていたポットから二人分のカップに飲み物を淹れながら口を開いた。

「そうだな。まずは王宮内だが、慌ただしい。当然ではあるがな。王は防衛の準備に動いてはいるが、冒険者が欠けているのは致命的だ。君の様に私個人に力を貸してくれている冒険者が僅かに居るが、圧倒的に不足している。正直、恥ずかしながら君頼りだよ」

 飲み物を淹れたカップをヒヅキの前に置きながら、エインはそう語る。それに、ヒヅキは呆れと驚きが入り混じったような声で応える。

「随分と正直に仰るのですね?」

「君は欲が少ない。正直に話したとて、変な要求はしてこないだろう? 今の君の価値なら大抵の我が儘は通るからな。というか、私自身を褒賞にして断られたぐらいだしな。あれは少々ショックだったぞ」

 そう言いながらも、その時のことを思い出したのか、エインはくっくと喉を鳴らして愉快そうに笑う。

「それに、君は隠し事をした方が心証を悪くするだろう?」

「よくご存じで」

「短い付き合いとはいえ、流石にその程度は察せるさ」

「そういう事でしたら、現在の殿下は王宮内では発言力が大きいという事になりますね」

「まぁ武力的には君や冒険者が力を貸しているからそうではあるが、それは周囲が正しく認識できていれば、の話だろう?」

「……なるほど」

 そこでエインは疲れた息を吐く。それは肉体的な疲労の時のそれというよりも、精神的なそれであった。

「あと、あの馬鹿……第二王子は逃げる気でいるようだ」

「……なるほど。それは個人的にはいい事ですが、民衆に知られたら大変な事になりますね」

「ああ、スキアが攻める前にガーデンが滅びるかもな」

 エインは両手を広げて肩を竦める。冗談のような口調と仕草ではあるが、エインの目は全く笑っていなかった。

「そもそも、ここまで切迫した要因……いや、そもそも初動で失敗した一端はあれにあったな」

 思い出してエインは僅かに顔を歪めた。

「あれは邪魔だから密かに逃げる分には構わない。監視もつけているからな。ただ、逃げるにしても、もう手遅れ寸前なんだよな」

 現在スキアの気配は西側にも感じ始めている。南側はまだではあるが、それも時間の問題だろう。

「南から脱すれば、まだ間に合うのでは?」

「ああ。あいつが大人しく逃げるのならな」

「どういう?」

「妬みだよ」

「妬み?」

「現在、王主導でガーデン防衛は行われているが、実質その中核を担っているのは第一王子だ。ここを乗り切れば第一王子は晴れて王、もしくは正式に次期王として指名されるだろうさ。第二王子はそれが気に食わないのさ」

「今逃げたらもう邪魔は出来ないと?」

「ああ、足を引っ張る事しか考えていない」

「……そもそも、今回の防衛の中核を担えるほどの第一王子が、何故あんな分かりやすい罠に嵌ったので?」

「それか……」

 エインは気持ちを落ち着かせるように、一度深くゆっくりと呼吸をする。

「第一王子ははっきり言って凡人だ。聡明でもなければ暗愚でもない。彼個人では毒にも薬にもならないような男だが、ただ、人の才を見抜き起用するのに長けていてね、おかげで優秀な人材を適材適所に配し、国を運営できる。そういう意味では天才だよ。その人を使う天才にも一つ弱点があってね」

「それは?」

「親、つまりは王と王妃さ」

「それと今回の騒動にどうつながるので?」

 ヒヅキの疑問に、エインは何かを嘲笑うように遠くに目を向けながら鼻で笑った。

「王と王妃は実子を大層可愛がった。特に王妃は第一王子と第二王子がお気に入りでな。その二人でも早くから自分の立場を自覚し、自立に動いた第一王子よりも、未だに甘えてくる第二王子に甘々なんだ。第二王子はそれを利用してあの男を傍に置かせ、更にはこの前の事に男の起用を進言した。第一王子も第二王子からの直々の進言であれば間違いなく断ったのだろうが、王妃を間に挟んだことで、裏を理解していても断り切れなかったようだ」

「そうしてああなった、と」

「ああ。遺憾ながらな」

 そのエインの肯定に、ヒヅキは思わず呆れたような表情を浮かべてしまった。

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