ガーデン防衛9
それは何処かの暗闇の中。姿が見ない完全な闇の中に、陽気な男の声が響く。
「さてさて、彼はこれからどうなると思う?」
男の言葉に、闇の中に居るはずの住人の返答はない。しかし、陽気な声の男は、その住人の言葉を理解する。
「まぁ、それが妥当だね。少々安請け合いが過ぎるけれど、万能感にでも浸ってるのかね?」
「………………」
相変わらずの沈黙。しかし、その闇の中には、陽気な声の男以外にも確かに誰かが居た。それも複数人。
「え? そうかなぁー。それでもこのままでは彼は死んでしまうよ?」
「………………」
「へぇー。それは太っ腹だねー。一体どういう風の吹き回しかな? 情でも移ってしまったかい?」
「………………」
「はいはい。冗談ですよー」
「………………」
「それでも、君がそこまで力を貸すのはなんでなのかなー? と、思いはするのよ」
「………………」
「それは興味深いね! あのいけ好かない生意気な野郎にぎゃふんと言わせられるのであれば、俺も手を貸さない訳には行かないなー」
「………………」
「はは、分かっているよ。君一人で十分な事ぐらいはさ! だから、ただ言っただけさ。それでも、必要なら力を貸すけれどさ」
陽気な声の男は気分がいいようで、歌うように言葉を紡ぐ。
「………………」
「まぁこれで彼は死なずに済みそうだ」
「………………」
「へぇ、彼は君のお気に入りかい?」
「………………」
「はいはい、だから冗談だって。彼に死なれて困るのは俺も同じだからね。君が手を貸してくれるなら、それは歓迎すべきことだよ」
「………………」
「しかし、いいのかね? 俺らが力を貸すと、特に君が力を貸し過ぎると彼は別の意味で死にかねないけれども?」
「………………」
「それはまぁ、彼に命を落とされるのは俺も困るがね。……そうだな、彼には悪いが我慢してもらうとするかな」
「………………」
「はぁ。相変わらず、君は寡黙だねー。いや、ここの奴らが総じて暗すぎるんだ!」
陽気な声の男は、闇の中の住人にそう伝えるが、それに対する答えは何も返っては来なかった。
「なんだかなぁ」
それに陽気な声の男は、困ったような声を出した。
「折角こうしてここに集えたというのに、君達はつまらないな。俺らが生きているのかは疑問だが、それでもこうして居るんだ、もう少し楽しくいこうぜ!」
陽気な声の男の訴えは、しかし誰からも反応がない。
「はぁ。ここの奴らはつまらんな」
そう言うと、陽気な声の男はため息を吐いた。
「そうだ。なぁ君、君に訊きたかった事があるのだが、いいかい?」
「………………」
「それなら訊くが、あのスキアというやつらは何者だい? 俺の時も謎のままだったが」
「………………」
「は? なんでそんなモノがあんな化け物に変わるんだよ?」
「………………」
「マジか……世も末だねぇ。というか、訊いといてなんだが、君はよくそんな事知ってるねー。君は本当に何者なんだい?」
「――――――」
「はいはい、だんまりですね。まぁいいけれどもさ」
肩をすくめたような雰囲気の後、陽気な声の男は口を閉ざす。それで、そこには完全な静寂が訪れたのだった。