ガーデン防衛8
「もしかして君は、あの事件の生き残りなのか!?」
それはエインが長い間悔いていた事件にして、コズスィと戦う為に力を貸して欲しいと願った少年の事が唯一書かれている事件。エインにとってとても大事な位置に在る事件であった。
沈黙を破ったエインのその突然の問いに、ヒヅキは僅かに首を傾げる。
「何を言ってるので?」
本当に分かっていないのかどうかは、ヒヅキからは何の感情も感じ取れないので読み取る事は出来なかった。
「宗教国家コズスィが国を持つ前、我が国の南側国境付近のとある村で起こした凶行の事だ」
エインの説明に一瞬の沈黙を挿み、ヒヅキは口を開く。
「そんな事もありましたね」
「では!?」
エインは思わず身を乗り出す。
「ええ。コズスィの信者を私が皆殺しにした話ですね。確かにあの時に生きていたのは私だけで間違いないですよ」
どこまでも一本調子で平板な喋り方のヒヅキ。その二人の間にある僅かなずれに、エインは若干気後れする。
「すまない。そんなつもりで言ったのではないのだ」
エインはソファーに浅くかけ直すと、恥じるように頭を下げた。
「私は君をずっと探していた」
「何故?」
「謝りたかったのだ」
「謝る?」
「ああ。私は当時の事は報告でしか知らないが、それでも幾つも予兆となる事柄は上がっていた。あれを防げなかったのは王家の怠慢だ」
話している内に怒りが込み上げてきたのか、エインは今にも叩きつけそうな程に強く拳を握る。
「殿下は私よりも年下だったはずですが?」
「そうだ。しかし、当時何も知らない、出来ない幼子であったが、この世界に存在していたのは事実だ。だから君には、ヒヅキ殿には本当に申し訳ないと思っていた」
エインは立ち上がると、深々とヒヅキに頭を下げる。
「不要です」
「え?」
「殿下が謝罪したからと全てが戻る訳でもありませんし、何よりあれはもう過去の話です」
「それはそうだが……」
かつての凄惨な事件の話を聞こうとも、話そうとも、エインが心より悔いて謝罪しようとも、ヒヅキは変わらず微塵も感情の感じられない顔と声を向け続ける。
「それで、殿下はこの後どうされるので?」
「え?」
「死ぬのか、生きるのかです」
「あ、ああ」
この話は終わったとばかりに話を元に戻すヒヅキ。それに、エインは困惑した表情になる。
「相変わらず君の事は何も判らないな……分かった、君の言う通りに無様でも生きてみよう。そうすれば君の事が少しは理解できるのかもしれないしな」
「では、微力ながらこの力を殿下のお役に立ててみせましょう」
そう言ってヒヅキはエインに頭を下げた。そして頭を持ち上げた時には、いつものヒヅキに戻っていた。