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ガーデン防衛7

「まぁ君の気持はよく分かるよ。私もここまで馬鹿な真似をするとは思っていなかったからね。でも、事実は事実なんだよ」

 エインは疲労の濃い笑みを浮かべる。

「このままでは国が亡ぶというのに、あれは自分が持て(はや)される以外には何も見ていない。独りで亡国の王にでもなりたいのかね?」

 そう言うと、エインは呆れたように大きく息を吐いた。

「すまない、話が逸れてしまったな。それで、第二王子の暴走により冒険者の大半が王都から去った訳だが、それでも我らは国民を捨てて逃げる訳にはいかない。……ガーデンが長くない事ぐらいは理解している。それは冒険者が居なくなった事で確定事項となった。それでも君に頼みたい。どうか、我らに力を貸してはくれないだろうか?」

「…………」

 座ったままとはいえ、深く頭を下げるエイン。ヒヅキはそれを眺めながら、少し考えて言葉を返す。

「お断りいたします」

「……そう、か。だが……どうにか頼めないだろうか。私に差し出せるものであれば何だって差し出す。だから――」

「ですが、エイン殿下個人になら力を貸しましょう」

「え?」

 尚も嘆願しようとしていたエインではあったが、突然のヒヅキの言葉を咄嗟に理解できずに間抜けな顔をする。

「またあんな事があっても困りますので、エイン殿下個人になら力を貸しましょう。と、言ったのです」

「ほ、本当か?」

「ええ。ですが、ガーデンが堕ちる前には脱出して頂きますよ?」

「それは……」

 ジッと試すように見詰めるヒヅキに、エインは言葉に詰まる。

「…………出来ない」

「何故です? ガーデンと心中する事が国民の為だとか、王家の義務だとか、散っていった者達への手向けだと仰るのであれば、それは独りよがりの勘違いだと思いますが?」

「……何故だ?」

「誰も喜ばないからです」

「…………」

「国の為だというのであれば、ここで死ぬ訳にはいかないでしょう? 貴女の為に散っていった者達は貴女を生かす為に散っていったのであって、誰も貴女の死など望んでいませんよ。それでも死にたいのであれば、最後に死んでください」

「最後に?」

「ええ。国が滅び、民が死に絶え、家族も友も守りたいもの全てがこの世を去った後に、独り取り残された世界で、無駄に死んでください」

「……君は、そんな顔もするのだな」

 感情の一切感じられない、仮面でも被っているかの様な作り物めいたヒヅキのその表情に、エインは芯から寒気を感じる。

「ええ。恐ろしいですか? この程度の恐怖など、全てを失う恐ろしさに比べたら可愛いものですよ?」

「君は……全てを失った事があるのか?」

「さぁ。どうだったでしょうか」

 その声からは何も感じられなかった。だからこそ余計に恐かった。

「それで、どうします? 最後まで生きますか? 全てを巻き込んで派手に死にますか?」

 ヒヅキの問いに、エインは閉口する。その何も映していない瞳に、虚ろな声。エインは目の前のヒヅキがただただ恐ろしかった。

「…………」

 しかし、恐怖に震えるエインの頭の中に、ある一文が浮かんでくる。

『その子はまるで人形の様にピクリとも動かず、何もかもに感情というモノが見られなかった』

 それはとある報告書に記載されていた、一人の兵士が記したある少年の観察記録の一文。それが頭に浮かんだエインはまさかと思い、恐怖を忘れてヒヅキに目を向けた。

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