ガーデン防衛5
エインからの使者が持ってきたのは、一通の私書であった。
ヒヅキはその私書に目を通す。
「これは今からという事ですか?」
「はい。そのように仰せつかっております」
私書の中身は個人的な招待状であった。
「……わかりました。では、直ぐに窺いましょう」
一瞬だけ考えたヒヅキは、一つ頷いて使者の男に案内を頼む。
現在の状況で会って話したいなど、その内容は一つしか考えられなかった。
ヒヅキは外出する事をシンビに伝えると、使者と共に外に出た。
使者の先導に従ってガーデンの道を進むと、王城にほど近い閑静な場所に到着する。
「ここはどこですか?」
人通りのほとんどないその区画に、ヒヅキは使者に問い掛ける。
「重臣とその家族が住む区画で御座います」
「ああ、ここが」
使者の言葉に、ヒヅキはそんな区画が在った事を思い出した。
そのまま使者の後について行くと、大きいながらも飾り気の無い屋敷に到着する。
「こちらで御座います」
使者のその言葉に従い屋敷の中に入ると、背の高い一人の侍女が出迎えてくれる。
「ここからは私が御案内致します」
侍女の言葉に、ここまで案内してきた使者の男は頭を下げると、屋敷を出ていった。
「どうぞ、エイン様はこちらで御待ちです」
侍女はヒヅキを先導して歩き出すと、少し廊下を進んだ場所に在った扉の前で足を止めて、軽く扉を二回叩いた。
「ヒヅキ様がいらっしゃいました」
侍女の言葉に、扉の先から「通せ」 というよく通る女性の言葉が届き、侍女が音も無く扉を開いた。
「どうぞ御入り下さい。ヒヅキ様」
数歩下がった侍女の言葉に従い、ヒヅキは扉の中へと入る。
その部屋には、顔が映るほどに磨かれた濃い茶色の机と、柔らかそうな同色のソファーが机を挟んで向かい合わせに置かれているだけであった。
「急に呼び出してしまってすまないな」
そのソファーの片方に座っていたエインは立ち上がると、ヒヅキに向かってそう声を掛けた。
「いえ。もしかしたら何かしらの報せがあるかもしれないと思っていましたから」
それにヒヅキは小さく頭を振ってそう返す。
「そうか。……ああ、すまない。立ち話もなんだ、座って話そうか」
思い出したようにそう言うと、エインはヒヅキに向かい側のソファーを勧める。
その勧めに従ってヒヅキがソファーに腰掛けたのを見計らったかのように、扉が軽く三度叩かれると、エインの返事を待たずに扉が開かれ、先程の侍女が飲み物をもって姿を現した。
「ありがとうございます」
目の前に置かれた飲み物に、ヒヅキは侍女に礼を告げる。エインは飲み物を目の前に置いた侍女に手ぶりで感謝を示す。
飲み物を届けた侍女は頭を下げると、静かに部屋を出ていった。
それを確認したエインは、ヒヅキに向けて口を開いた。