ガーデン防衛4
ヤック・タッタン将軍の独り言に、冒険者達は激怒した。
殺さんばかりの勢いでヤック・タッタン将軍へ飛び掛かろうとする一部の冒険者達だったが、冒険者の中の冷静な者達がそんな彼らを止めた事で、ギリギリ血が流れる様な事態にはならなかった。しかし、これで冒険者がカーディニア王国側に手を貸すことは無くなった。
その場で帰っていった冒険者達はそのまま荷を纏め、大半がソヴァルシオンへと一旦居を移す事を決めたらしく、翌日が終わる頃にはガーデンに滞在する冒険者はほぼ居なくなっていた。
◆
「ヒヅッキーは行かないのか?」
「流石に冒険者の居ない状態でガーデン防衛など不可能だと思いますわよ?」
ヤック・タッタン将軍と冒険者達との騒動があった翌日。シラユリとサファイアもガーデンを発つと聞いたヒヅキが二人を見送る為に南門まで向かうと、二人に一緒に来ないかと誘われた。
「まぁ、このままいけばガーデンは落ちるでしょう。ですが、今行っても意味がないんですよね」
「どういう事だー?」
「直にスキアが攻めて来るという事です。その際に逃がしたい相手や、逃がさないと都合が悪い相手が居るのですよ」
「そうなのかー?」
よく分からないという風な顔をする二人に、ヒヅキは小さく笑いかける。
「とにかく。私はまだここを離れられませんので、お二方ともお元気で」
「……そうかー。ヒヅッキー、死ぬんじゃないよ?」
「勿論ですとも」
「ならいいがなー。ヒヅッキーは危なっかしいからなー」
「ですわね。正直、個人的にはヒヅキさんには力を貸したいのですが、こちらにも色々事情があるので、申し訳ないですわ」
頭を下げてくるサファイアに、ヒヅキは首を横に振る。
「そのお気持ちだけで有難いです。それでは、また機会がありましたらお会いしましょう」
「ええ。必ず!!」
「じゃあなー。ヒヅッキー!!」
そう言うと、無理に笑った様な笑顔を浮かべて、二人は手を振ってガーデンを離れていった。
◆
(さて、逃げ道は南としても、どう逃がすか。あと、冒険者が居なくなったけれど、俺の処遇はどうなるのかね? 独りであれの下に就けとか?)
冒険者が去った翌日。ヒヅキはそう考え、エインの出方を待つ事にした。
「冒険者の皆さんはガーデンを去ってしまわれたと聞きましたが、大丈夫なのでしょうか?」
朝食を終え、ヒヅキがシロッカスとアイリスと話をしていると、アイリスが胸元で手を握って不安そうに口にする。
「そうだな、荷造りはしておいた方がいいだろうな。その際だが」
シロッカスはヒヅキへと目を向ける。
「我らを守ってくれないだろうか?」
「私に出来る限りではありますが」
「分かっている。だが、今はそれが何よりも心強い」
そう言ったシロッカスは、安堵に少し表情を緩める。
「そういう事だ、アイリスは安心していなさい。シンビ」
「はい。旦那様」
「アイリスの荷造りの手伝いを頼む」
「畏まりました」
シロッカスの言葉にシンビは恭しく頭を下げた。
その日の昼前。ヒヅキの元にエインの使者が訪れた。