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ガーデン防衛2

 ヒヅキはシラユリとの握手を終えると、誰かを探すように周囲に目を向ける。

「それにしましても、エイン殿下は遅いですね」

 集合時間は既に過ぎていた。集まってくる冒険者の数も減り、そろそろエインと言わずとも責任者が姿を見せてもいい頃合いであった。

「エイン王女なら今日は来ないぞー」

「そうなんですか?」

「うん。今回の総指揮はカーディニア王で、ここの指揮官は名目上第一王子らしいよー。まぁ、実際にはその補佐に就いたエイン王女らしいがなー」

「それで、今日はその第一王子が?」

「いやいや、今回はその側近の何とかって大将らしいよー。正直聞いたことなかったから、実力は期待しない事だなー」

「はあ」

 シラユリの言葉に、ヒヅキは呆れたように小さく息を吐く。ガーデンの、()いてはカーディニア王国の存亡にかかわる様な重要局面にその程度の人事を行う王国に。

(それとも、無名なだけで実は優秀とか?)

 その可能性も考えたヒヅキではあったが、今までエインや市井(しせい)の声に耳を傾けて知った王家の話から考えて、それはないだろうと即座に否定する。

(おそらく後継者争いとやらか)

 ヒヅキにとってそれはあまりにもくだらない事情だった。その為、ヒヅキは防衛の依頼を放棄してしまおうかと一瞬本気で考えてしまう。

「まぁ、実戦の指揮は別口だから、説明だけだろうよー。だから今日は我慢するが、私達冒険者が無能の指揮に何時までも唯々諾々と従うと思われるのはもの凄く不快だしね」

 途中から刃の様な鋭利さを含んだ物言いに変わったシラユリだったが、直ぐににぱっと子どもが浮かべる様な無邪気な笑みを浮かべた。

「ここで負けたらどこかに拠点を変えないといけないなー」

 とはいえ、話す内容には少々毒が含まれていたが。

「そうなっては南に行くか、国を変えるしかないのでは?」

 それに平然とそう返すヒヅキも大概ではあるが。

「他国は無事なのかねー。被害が出ているとは耳にしたがなー」

「そうなんですか?」

 他国の事情を知らなかったヒヅキは、シラユリの言葉に驚いたような声を出す。

「聞いた話だがなー。どうやら東西南北スキアがわらわら姿を見せているらしいよー。特に宗教国家コズスィは、カーディニア王国よりも酷いらしいなー。噂では既に滅んだとかー」

「あら、あの死兵軍団が、ですの?」

「死兵でもスキアには関係ないしなー。だって、そんなの関係なくスキアはその場に居る者を殺しつくすしなー」

「まぁ、それはそうですけれども」

 シラユリの物言いに、サファイアは言い淀む。それを聞きながら、ヒヅキはどこか他人事の様な、歴史書で他国の遥か昔の歴史を読んだような、そんな直ぐに忘れそうな薄い感慨にも似た感想を覚える。

 それを理解したヒヅキは、視線をほんの少し上げて空の先を見詰める。

(ああ、なるほど。もう、俺にとっても過去なんだな)

 かつて子どもの頃に経験した絶望と怒り。復讐を誓った事もあったものの、結局、既にそれらは全てヒヅキにとっては過去の記録になっていた。

 それを知っても、それがこの謎の力の副作用のものなのか、それとも自分の中で折り合いがついた、成長した結果なのかは分からなかったが、それでもこれでよかったんだと、ヒヅキは自然とそんな風に思えた。

「ヒヅッキー?」

「ヒヅキさん?」

 空を見上げたまま呆けているヒヅキに、シラユリとサファイアが心配そうに声を掛ける。

「どうしました?」

 顔を戻すと、ヒヅキはそれに応える。

 その顔はいつものヒヅキの様でいながらも、どこかすっきりしたような、そんな澄んだ表情をしているようにシラユリとサファイアは感じた。

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