嵐の前の21
ヒヅキは調整を施した砲身へと、手元の極小の魔弾を投げる。
砲身である光の環の中へと放り込まれた極小の魔弾は、光の環から指向性と速度、それに威力が追加され、そのまま空き地の中央へと目にも止まらぬ速さで飛んでいく。
「上手くいけばいいけれど!」
その魔弾が空き地中央の大穴へと着弾する直前、何とかその瞬間を見極めたヒヅキは、魔弾を創り上げている自分の魔力を操作して、爆発を起こさせる。これは魔砲修得時に理解した起爆方法で、主に魔砲で空中の敵を狙う時用の起爆方法であった。
爆発が起きたのはヒヅキの狙い通りに着弾直前ではあったが、それでも起爆が少し遅かったようで、大穴は更に深くなっていく。
「……こ、これぐらいならばまだ許容範囲だろう」
腰下辺りまであった大穴の深さは、今の魔砲の爆発で臍上辺りまでになっていた。砲身の威力を抑えた事で爆発が弱まり、大穴自体は広がりはしなかったものの、中央の周囲の深さは着実に増していた。
「これで安全に練習が出来るな!」
ヒヅキは少し自棄気味にそう結論付けると、次の魔弾の準備をする。砲身の威力は更に弱めておいた。
極小の魔弾を現出させたヒヅキは、空き地の中央目掛けて、微弱な光を放つ光の環が一つまで減った砲身の中へと魔弾を通す。
「今度こそ!」
起爆予定地点の少し手前で観測しつつ、狙いを付けて起爆させる。今回は上手く起爆出来たようで、地表部分より少し下あたりで魔弾は起爆する。
砲身をより弱体化させただけに、今度は大穴が深くなるような事態にはならなかった。
「この調子で、威力調整をもう少し頑張るか」
それからもヒヅキは何度も魔弾を生成しては、弱体化させた砲身に通す。砲身と魔弾の威力増減でどう変わるのか調べた結果、魔弾の調整よりも、砲身の調整の方が威力への影響が大きく出る事が分かった。それとは別に、魔弾の形を変えられる事によって爆発に多少の指向性が持たせられることも判明した。
「そろそろ、疲れて来たかな」
謎の声に追加された魔砲二発分は未だに健在ではあるものの、それに手を付ける前に練習を切り上げる。
「もう夜か」
光の魔法を使用し続けていた為に光の感覚が少し狂っているようで、ヒヅキは練習を終えて光が無くなるまで周囲が暗くなっている事にも気づかなかった。また、魔法の光に慣れたせいで普段よりも周囲が暗いような気がしていた。
「帰ろう」
少しふらつく足で大穴を迂回して通路に戻ると、そのまま倉庫区画を後にする。
シロッカス邸に戻るまでに倉庫区画の謎の光の話をしている者達が居たが、ヒヅキはそれを気にする事なくシロッカス邸に帰宅する。
帰宅したヒヅキはシロッカスに大穴の話をしたが、シロッカスは笑ってそれを許した。
それが終わり、ヒヅキは先に風呂に入ると、その後に食事を終えて自室で早めに就寝したのだった。




