嵐の前の19
使者が早くに訪れた事で時間が出来たヒヅキは、何をしようかと考える。
「そういえば、魔砲の練習がまだだったな」
その事を思い出したヒヅキは、まずは広い敷地を確保しなければと、屋敷に居たシロッカスの下を訪ねた。
「それなら丁度いいところがあるよ」
ヒヅキの相談を受けたシロッカスは、ガーデンの地図を取り出し、とある場所を指し示した。それは街外れの一角であった。
「先日まで武器や資材の集積地として使っていたんだがね、今はお陰でそれらがすっかり捌けてくれてただの更地だ。まぁ倉庫はあるが、基本は資材置き場だったので、倉庫自体は端の方にあるから広さは十分に在ると思う。それに、あそこは倉庫区画のような場所で、人の出入りが制限されているので人目もそこまで気にせず済むだろう? これが私の商売の関係者である事を示すモノだ。持って行きなさい」
説明をしながらシロッカスは、手のひらサイズの紙質の硬い証明書をヒヅキに差し出す。そこにはシロッカスが営む商会の名前と、その関係者である旨を示す文、最後にシロッカスの直筆のサインが書かれていた。
「ありがとうございます」
その証明書を丁寧に受け取ると、ヒヅキは深く頭を下げた。
「気にする事はないさ。こちらこそヒヅキ君には何かと助けてもらっているからな」
シロッカスは笑いかける様な軽い口調でそんなヒヅキにそう返す。それにもう一度頭を下げると、ヒヅキは教えられた場所に移動する為に退室した。
シロッカス邸を後にしたヒヅキは、街外れの倉庫区画へ向けて移動する。まだギリギリ昼前の為に、時間的には余裕があった。
倉庫区画はシロッカス邸からは離れていたものの、そこまで遠くはなかった為に、到着したのは昼も半ばぐらいの頃。
区画は高い塀で囲まれて、入り口は兵士が警戒していた。兵士による周囲の警邏も行われている。
ヒヅキは入り口の兵士にシロッカスに渡された証明書を提示する。その証明書を確認をされただけで難なく中へと通される。
倉庫区画は、その名の通りに倉庫が建ち並ぶ場所であった。道を進み入り口から離れると、倉庫の数も減り、空き地の様な広い空間が目立ち始める。そこには木材などの資材や何らかの道具が置かれていた。
ヒヅキはシロッカスに貰った証明書に書かれている番地まで移動すると、そこは周囲よりも一際広い空き地で、シロッカスの説明通りに隣の空き地との境付近に倉庫が立っていた。他はその倉庫近くに資材が少し置かれているだけ。周囲には人の姿は無い。
それを確認したヒヅキは、丁度いいと空き地の中へと足を踏み入れた。