嵐の前の14
お茶と菓子を平らげたヒヅキとサファイアは、カトーに別れを告げて建物を後にする。
外に出たヒヅキ達は、ソレイユラルムのギルドがある方へと顔を向ける。
「さ、行きますわよ!」
そう言ってヒヅキの手を掴むと、サファイアはソレイユラルムのギルドを目指して歩き出す。
サファイアに手を引かれながらも、ヒヅキはその後について行く。
「……ソレイユラルムでは退屈するかもしれませんよ?」
「構いませんわ。これは私が勝手にやっている事ですので」
「そうですか」
それでヒヅキは口を閉ざす。本人がそれでいいと言うのであれば、ヒヅキには何も言う事はなかった。魔法に関しては別に何もかもが秘匿事項という訳でもないし、その辺のさじ加減はルリが行う事だろう。それに、サファイアはヒヅキが魔法を扱える事を知っているので、魔法について知りたがっている事が知られたからといって、面倒事に巻き込まれる可能性はそこまで高くはないという判断もあった。
そのままサファイアに手を引かれたまま迷路を進み、ヒヅキはソレイユラルムに到着した。
ソレイユラルムのギルドの建物は一見大きな二階建ての民家の様であった。
(まぁ、シロッカスさんの家に比べたら、これでもまだ普通の大きさに見えてしまうんだよな)
シロッカス邸に慣れてきている事に内心で苦笑しながらも、ヒヅキは建物の中へと入る。
「ソレイユラルムへようこそ」
中に入ったヒヅキ達に涼やかな声が掛けられる。その声の主は背の高いスラリとした女性だった。
「本日はどのような御用件でしょうか?」
その女性の問い掛けに、ヒヅキは自分の名前とルリを訪ねてきたことを伝える。
「ルリですね。少々お待ちください」
頭を下げた女性は、受付の奥にある二階へと続く階段を上っていった。
その間、受付で待つヒヅキはギルド内へ目を向ける。
ソレイユラルムのギルドの建物は少人数で囲む様な机が幾つも置いてあり、数人がその机を囲むように腰掛けている場所が数ヵ所あった。その様子はどこかの喫茶店のような雰囲気であった。
「ヒヅキさんは何の御用でここに?」
サファイアのその声に、ヒヅキは視線を戻す。
「少々尋ねたい事があったもので」
「尋ねたい事ですか?」
「はい。魔法についてです」
「なるほど。それで納得しましたわ」
魔法について詳しいのは、やはり魔法が使える人数が多く、専門家である冒険者だろう。それ故にサファイアはヒヅキの答えに大きく頷いた。
サファイアが納得したそのタイミングで、奥の階段から受付の女性がルリを連れて下りてきた。